2020年6月にビッグマイチェンを受けた新型ISが世界初公開され、11月から販売を開始する予定となっている。
ISはジャストサイズのスポーツセダンで、ライバルはBMW3シリーズ、メルセデスベンツCクラス、アウディA4といったドイツ御三家の人気モデルだ。
しかし、2013年デビューで、7年経過した段階で、なぜフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジなのか、という疑問はある。
そしてレクサスは2020年8月いっぱいでGSの生産を終了。なぜモデルから消えたのはISではなくGSだったのかも気になるところ。
すでに新型ISのプロトタイプに試乗している渡辺敏史氏が、前述の疑問に加えて、ISの進化の方向性、フルモデルチェンジではなくビッグマイナーチェンジを選択した理由について考察する。
文/渡辺敏史、写真/LEXUS、BMW
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フルモデルチェンジに匹敵するマイナーチェンジ
2020年11月にビッグマイナーチェンジが施される見通しとなったレクサスIS。2013年の登場から7年余といえば、ライバルたるメルセデスやBMWのモデルチェンジサイクルに相当する。
新しいISもエクステリアは大きくイメージを違えているが、モノコックシャシー自体はキャリーオーバーすることもあって、あくまでマイナーチェンジという体を採ることに決めたようだ。
その改変ぶりは、たとえばVWゴルフが5代目から6代目、もしくは7代目から8代目に変わった時のように、フルモデルチェンジと言い切れば納得させられるほどのものだ。
行き場を失ったGS
そこに日本的な慎ましさを感じなくもないが、いっぽうでレクサスはこの夏、GSを生産終了、次期モデルはなしという大きな決断を下している。
選択と集中の一環であることは察しがつくが、果たしてなぜGSの側がディスコンになったのだろうか。
最大の理由はここ10年余で大きく変わったモデルラインナップが示している。
メルセデスやBMWといったプレミアムブランドのそれたる所以は、たとえさまざまなモデルがあれど、その不動の大黒柱がD・E・Lセグメントと3つのFR系セダンにあることと考えられてきた。
例外はアウディだが、彼らも4輪駆動=クワトロを理想的に機能させるべく、A4・A6・A8の3モデルについてはエンジン縦置きのレイアウトを採用している。
故にジャガーやキャデラック、そしてレクサスといった非ドイツ系のプレミアムブランドも同様のラインナップを構成して同じ土俵に上がろうとしていたわけだ。
が、オーナードライバーのニーズが大きくSUVに傾いてきたのは周知の事実。そしてプレミアムブランドでその割をもっとも食ったのがEセグメントのセダンになる。
ドイツ勢は国内企業が役付き報酬の一部として通勤車両を貸与するカンパニーカー制度を採っていることもありEセグメントの需要が底堅い。
が、そういう背景のないブランドでは、Eセグメントの販売が軒並みSUVに流れている。
レクサスでいえば従来GSを検討していた層がRXに流れていることは間違いない。
そしてEセグメントセダンのパッケージが、商品の個性を明確化するに難しい体躯になっていることもGS終了の流れを後押しした。
社用車やハイヤーなどの法人需要を手堅く狙おうにも後席の居住性を鑑みればLS、もしくはFFベースのESのほうが適任……とあらば、GSはいよいよ行き場がない。
個人的にはGS Fは気持ちいいエンジンを鳴らしてクルマを操る楽しさを満喫できる上出来なスポーツセダンだと思うが、当然ながら基準車のディスコンとともに販売終了となった。
コンパクトスポーツセダンへのこだわり
逆にレクサスがISを継続する理由は、コンパクトなセダンのニーズが主力の日米市場で見込めることにある。
と聞くと、フォードでさえセダンの販売を終了するという米国でなんでISの需要が見込めるのかという疑問も湧くだろう。
が、ISはハンディなサイズで上質かつ適価なスポーツセダンとして若年層の人気が高いという。実はここにFRレイアウトの功があったというわけだ。
ISがビッグマイナーチェンジというかたちを採った理由も、実はここに由来している。新しいGA-Lプラットフォームでは車体がどうしても重くなりISらしいスポーティネスを演出するのが難しい。
いっそうのドライビングプレジャーを提供しながら、適価であることにも配慮するなら、骨格はキャリーオーバーしたほうが正道だという結論に達したというのは、先代から14年以上ISの開発に携わり続けている小林直樹チーフエンジニアだ。
つまり、新しいISはセダンラインナップにおいてもLSやESとは一線を画し、多彩なパワートレインと鋭敏な運動性を特徴としたコンパクトスポーツという位置づけをより明確化することを狙った結果の、ビッグマイナーチェンジになったということになる。
2Lターボの進化が顕著
エクステリアに負けず劣らず手が加えられたのは車体骨格周りだ。とりわけ小林CEが拘ったのが、ハブを形式変更し、ホイールの締結をナット締めではなく、ロングポルトをハブ穴で受けるボルト締めにしたこと。
欧州車では見られる形式だが、これにより締結トルク向上による剛結化と、4輪合わせて1kgのバネ下重量低減が実現できたという。
これ以外にもアーム類の鍛造アルミ化やコイル&スタビライザーに高応力材を用いるなどして、バネ下重量は更に低減されている。
併せて、モノコック側もピラー構造の見直しやラジエターサポートの強化、フレームや開口部のスポット増しなどで剛性が高められた。
現状は詳細な仕様は不明だが、基本グレード構成は2L、直噴ターボのIS300、2.5L、ハイブリッドのIS300h、そして3.5L、V6のIS350という3本立てになることは間違いないだろう。
プロトタイプの試乗では各パワートレインを試すことができたが、大きく変貌を遂げたのは意外にも2Lターボだ。
以前は5000rpm超えでパワーの伸びもガクンと鈍り、サウンドも褒められたものではなかったが、新型のそれは数値的な違いはなくも、6000rpmを超えるところまでしっかり回り、音の濁りも随分抑えられた。
ようやくスポーツモデルとして認められるキャラクターになったといえるだろう。
ターボに比べるとハイブリッドとV6には大きな変化を感じなかったが、とりわけ自然吸気のV6は少数派とはいえ、今やライバルが持ち得ないものであることを鑑みれば、確かに継続すべきキャラクターだったと思う。
鍛え上げられた走りには期待感大
走りの進化はともあれ著しい。
軸回りの高精度ぶりが伝わる低速からのスッキリした転がり、コーナーでのロールバランスのよさや高負荷でのボディのカッチリした感触は、明らかに直近までのモデルとは一線を画している。
特にISのシャシーは限界域からのリアのブレークが早い傾向があったが、新しいISはタイヤサイズの見直しも可能になったことで、滑り出しの優しさとそこからのコントロールの自在性を大きく高めていた。
クローズドコースでの印象ゆえ乗り心地については判然としないことも多いが、ボディのしっかり感や足回りの懐深さからみるに、一般道での動的質感もきちんと向上しているだろう。
2019年に運用を開始した下山テストコースは、地形を活かした大きなアップダウンが続く中、これでもかと意地の悪いセクションを組み合わせた、ニュルをも超えんとする意地の悪いレイアウトが特徴だ。
新しいISはそこで徹底的に鍛えられた初めてのレクサスになるという。エクステリアのみならず、走りの変化は大いに期待できそうだ。