2020年9月に公開された日産フェアレディZの次期モデルのプロトタイプは全体的なシルエットやヘッドライトの形状はフェアレディZの初代モデルとなるS30型をモチーフとしている。
そして、テールランプは4代目モデルとなるZ32型を思わせるデザインを採用し、日産自体と伝統ある日産車の1台であるフェアレディZの復活をアピールしている。
スポーツモデルに限らずデザインなどで過去の名車をオマージュするという手法は、あまりやりすぎるとデザインの発展など先々難しい面もある。
しかし、うまく行えば当時を知る世代には「あの〇〇を彷彿とさせる、あの○○の再来」といった心情的なものにも近い魅力を生み、当時を知らない世代にも新鮮さを与えるという効果も持つ。
当記事では次期フェアレディZのように過去の名車を何らかの形でオマージュしたスポーツ系のモデルを振り返っていく。
文/永田恵一、写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、ALPINE、MERCEDES-BENZ
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初代トヨタスープラと2000GT
トヨタ2000GTはトヨタが開発過程や生産などの分野でヤマハ発動機の手も借り1967年にリリースした、GTカーのキャラクターが今でいう強いスーパーカーである。
2000GTは2L、直DOHCエンジンや5速MT、四輪ディスクブレーキ、マグネシウム製ホイール、リトラクタブルヘッドライトといった夢のようなメカニズムを集めたモデルで、ゼロヨン加速15.9秒、最高速220km/hという世界に通用する速さを実現。
価格は現在の貨幣価値で考えれば1500万円から2000万円相当する238万円という高嶺の花だったこともあり、337台を生産し、1970年に絶版となった。
2000GTをオマージュしたところがあったのが1986年登場のスープラの初代モデルである。初代スープラは2000GTほど貴重なモデルではなかったが、「TOYOTA3000GT」というキャッチコピーを使い、初期モデルのテレビCMには2000GTも登場した。
そういった目で見ると初代スープラは当時日本最強の3L、直6ターボエンジンを搭載した日本最速車の1台だった。
さらにリトラクタブルヘッドライトの採用や日本を舞台とした映画「007は二度死ぬ」に登場した市販化はされなかった2000GTのオープンモデルを思い出させるところもあるタルガトップとなるエアロトップの設定なども、2000GTの再来も思わせた。
またレクサスから2009年に500台限定で登場したV10エンジンを搭載したスーパーカーであるLFAも、登場前にモータースポーツに参戦しクルマを鍛えた点や3750万円という価格、開発過程でのヤマハとの協力など、2000GTを思い出させる部分があるモデルだった。
トヨタ86とカローラレビン/スプリンタートレノ(AE86)
型式AE86を持つカローラファミリーの2ドア&3ドアクーペである1983年に登場したカローラレビンとスプリンタートレノは、乗用系のカローラファミリーとしては最後のFR車である。
それはこの世代でカローラファミリーの多くはFRからFFに移行したのだが、「スポーツモデルまですべてFFにするのはまだ経験が浅いこともあり、造りなれたFR車を残して様子を見たい」ということが理由だった。
そのためAE86はエンジンこそ当時最新の1.6Lツインカムの4A-GE型が搭載されたが、サスペンション形式などは当時でも決して新しいものではなく、ノーマル状態では特にいいクルマでなかったのも事実だった。
しかしAE86はFRであることも含め構造がシンプルだったことなども幸いし、モータースポーツ参戦も盛んで、アフターパーツも多数発売され、外部のチューナーの手も借りながら成長。
またカローラレビン&スプリンタートレノもAE86から1987年にフルモデルチェンジされたE90系でFF車になったため、当時低価格のFR車が絶滅状態に近くなったこともあり、絶版後に人気車となり、AE86の人気とチューニングは現在も続いているほどだ。
2012年に登場したAE86の車名を引き継ぐトヨタ86はNAエンジンのFR車という点はAE86と同じだが、車格やスタイルなどAE86時代をオマージュしたモデルではない。
では何をオマージュしているのかといえば、「外部の手も借りながら成長していったAE86の存在」である。
そのため86は現代のクルマとしては手を加えやすく、実用性の高さやランニングコストが比較的安い点などはAE86と共通である。
86はそんなクルマだけに堅調に売れ、モータースポーツやチューニング業界の盛り上がりにも大きく貢献しており、このことは86が残した大きな功績と断言できる。
2021年に登場すると思われる次期モデルもこの好循環が続くよう、頑張ってほしいところだ。
ホンダS2000とSシリーズ
ホンダが四輪に参入した1960年代前半、ホンダはそれぞれ当時夢のような存在だったDOHCエンジンを搭載した軽トラックのT360とスポーツカーのSシリーズしか四輪車はないという、創設者の本田宗一郎さんを象徴するような破天荒な自動車メーカーだった。
Sシリーズはバイクの技術を応用したところもある駆動系を持つFRのスポーツカーで、1963年登場のS500からS600、S800と発展し、オープンボディを中心にクーペボディもあった。
Sシリーズはホンダらしくというかエンジンの存在感が非常に強いクルマで、耐久レースでは速さに優れる剛のS800と、燃費に代表される持久力に優れる柔のトヨタスポーツ800が面白い戦いを繰り広げていた。
1999年登場のS2000は29年ぶりのSシリーズではあったが、FRのオープンモデルということくらいしかSシリーズとの共通点はない。
しかし、2LだったS2000はレーシングカーのように9000回転回るエンジンをはじめ、トランスミッションや車体などほとんどの部分がS2000専用ということもあり、「憧れを持てるスポーツカー」というところは1960年代のSシリーズと同じだった。
なお、S2000は絶版となってしまったが、ホンダのSシリーズの最新継承モデルとして、軽ミドシップオープンスポーツのS660が2015年にデビューし、現在も販売されている。
新旧アルピーヌA110
後にルノー傘下となるフランスのアルピーヌ社が1963年にリリースしたA110は、RRの乗用車をベースとしたスポーツカーである。
搭載されるエンジンにパワフルなものは少なかったが、軽さとRRの強いトラクションを生かし、特にラリーでは大活躍した。
A110は1977年に絶版となるのだが、それから40年の節目となった2017年に復活したのが現在のA110である。
復活したA110はかつてのA110ソックリのスタイルを持つが、駆動方式はエンジン横置きのミッドシップとなり、車格や価格も1.8L直ターボの搭載などによりポルシェボクスターあたりに近いものとなった。
しかしアルミボディの採用などにより車重は1100kg台前半と非常に軽く、コーナリングの速さを武器にするというのはかつてのA110と共通だ。
また現代のスポーツカーらしく、サーキットなどで速さを安全に楽しめる点も大きな魅力だ。
ベンツSLRマクラーレンと300SLR
1955年のル・マン24時間レースやミッレミリアなどの公道レースに参戦したベンツ300SLRは、あの300SLとは車名が似ているだけで関係性のない、前年となる1954年のF1を戦ったW196をベースとしたGTカテゴリーのレーシングカーである。
300SLRから約50年が経った2003年に登場したSLRマクラーレンは、当時ベンツがF1でエンジンを供給していたマクラーレンの市販車部門となるマクラーレンカーズ(現在のマクラーレンオートモーティブ)が生産を担当した、スーパーカーだ。
SLRマクラーレンはカーボンボディを持ち、5.4L、V8スーパーチャージャー+5速ATというパワートレーンを搭載し、スタンダードなクーペボディで0-100km/h加速3.8秒、最高速334km/hというパフォーマンスを誇った。
日本での価格は5985万円というスーパーカーである。
SLRマクラーレンは300SLRとは形は異なるもののガルウイングドアや、300SLRに高速域でのブレーキングの際の安定性を高めるために採用されたエアブレーキに相当する機能が与えられた。
また、W196をドライブしたスターリング・モス氏が付けたカーナンバーをグレード名にした722エディションや、W196の1つであるW196Sをイメージしたスタイルを持つスターリング・モスの設定などで、300SLRをオマージュした。
なおSLRマクラーレンは2009年で生産終了となるのだが、後継車となったSLS AMGもガルウイングドアなどで300SLをオマージュしたモデルだった。
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