スズキの小型クロスオーバーSUV「SX4 Sクロス」が、2020年内にひっそりと日本での販売を終了していたことがわかった。
SX4 Sクロスは公式HPのラインナップから消えており、スズキ広報部に問い合わせたところ「日本向けについては昨年内に販売終了しております」と、すでに一部店舗での在庫限りで、事実上絶版となっていることが判明した。なお海外向けモデルについては、引き続きハンガリーで生産を継続しているという。
SX4 Sクロスの2020年11月の販売台数は15台と低迷しており、販売終了は無理もないのだが、SUVブームのなか、なぜSX4 Sクロスは歴史に終止符をうったのか?
本稿では初代モデルのSX4とSX4 Sクロスが辿った軌跡や魅力を振り返り、「なぜヒッソリと絶版になってしまったのか」を含めて考察してみたい。
文/永田恵一、写真/編集部、SUZUKI
【画像ギャラリー】本文未掲載写真も! 昨年末にひっそりと販売終了したスズキ SX4 Sクロスを写真で振り返る
■実はフィアットとの姉妹車だった! SX4 Sクロスが歩んだ軌跡
●初代SX4/2006-2014年
2006年7月に日本で登場したSX4は2代目スイフトをベースにボディサイズを拡大したコンパクトクロスオーバーで、このジャンルの日本車の先駆車だった。
SX4は、フィアット セディチとの共同開発車で、デザインはあのジョルジェット・ジウジアーロ氏が率いるイタルデザインによるものである。
SX4のボディタイプは標準の5ドアハッチバックと最低地上高を上げ、ルーフレールや樹脂製のオーバーライダーなどを持つクロスオーバーのX系があった。
パワートレーンは1.5Lと2LのNAエンジンに4速ATの組み合わせで、それぞれにFFと4WDを設定。登場翌年の2007年には1.5L/FF(前輪駆動車)のみとなる4ドアセダンも追加された。
SX4は、2004年登場で軽自動車ベースではないコンパクトカーとなった2代目スイフト以来上り調子にあった当時のスズキ車らしく、動力性能こそ目立たないながら操作に対し正確なハンドリングや引き締った乗り心地により、運転すると非常に好印象だった記憶がある。
また、SX4はJWRCの2代目スイフトとともに、2007年終盤2戦へのテスト参戦を経て、2008年にはトップカテゴリーとなるWRカーでWRCに参戦。2008年シーズン終盤にはラリージャパンとウェールズでの5位入賞など、成績も向上していた。
しかし、リーマンショックによる景気低迷で、残念ながら2008年でWRC参戦は終了となった。
■SX4 Sクロスは2017年にフロントマスク大刷新などテコ入れ
●SX4 Sクロス/2015-2020年
SX4の後継車となるSX4 Sクロスは、2012年のパリモーターショーに出展されたコンセプトカーを経て、海外では2013年のジュネーブモーターショーで市販車が登場。
日本には2015年2月に投入され、ボディサイズは現在のコンセプトクロスオーバーとしては標準的な全長4300mm×全幅1765mm×全高1575mmに拡大された。
登場時の日本仕様のパワートレーンは、1.6LのガソリンNAエンジン+CVTで、FFに加えオート、旋回性能に優れるスポーツ、安定性重視のスノー、駆動力を高めるロックという4つのモードを持つALL GRIPと呼ばれる4WDを設定。
機能面ではボディサイズを拡大しながら50kg軽量化され、生産はスイフトより半車格下のコンパクトカーで絶版となったスプラッシュや現在も販売されているコンパクトSUVのエスクードと同様にハンガリーで行われていたため、SX4 Sクロスは輸入車だった。
登場後の改良としては、2017年6月のマイナーチェンジで、フロントマスクをグリル、ヘッドライト、バンパー、ボンネットの変更により押し出し感のあるものに変更。
また、タイヤを17インチに大径化し、最低地上高をマイナーチェンジ前より20mm高い185mmに拡大。CVTを6速ATに変更した。
さらに、2019年10月の一部仕様変更では、ミリ波レーダーを使った自動ブレーキや先行車追従型のアダプティブクルーズコントロールなどから構成されるレーダーブレーキサポートII、フロントサイドとカーテンエアバッグの標準装備化といった安全装備の充実があった。
■なぜ成功できず? SX4 Sクロスの魅力
SX4 SクロスもSX4と同様に動力性能や燃費こそ目立たなかったが、欧州でも販売されるモデルだけに、エンジンの回転フィール、ハンドリングやシートの座り心地を含めた乗り心地など、全体的に硬質な乗り味で、乗るといいクルマだった。
また、価格も前述の一部仕様変更後のモデルでFF/214万560円、4WD/235万5650円と、車格などを考えればなかなかリーズナブルだった。
では、なぜSX4 Sクロスは成功しなかったのか? これはエンジンや自動ブレーキなどの安全装備が現在の水準に届いていなかったこともゼロではないにせよ、それ以上にSX4 Sクロスを取り巻く背景が大きかったように思う。
SX4 Sクロスは、テレビCMがそれなり流れていたが、それでも自動車メディアのスタッフの大半ですらSX4 Sクロスの存在を忘れているだけに、一般ユーザーの中に「SX4 Sクロスというクルマがある」という認識がある人はほとんどいなかっただろう。
また、そもそも販売目標台数が少なく、できることも限られていた。
SX4 Sクロスの年間販売目標台数は2019年の一部仕様変更まで600台、一部仕様変更後1200台と、スポーツカー以上に少なかった。これではエンジンの変更やバリエーションの拡充といった改良が限られるのも当然で、商品力が向上しないのも無理もない。
むしろこの販売目標からすれば「よく手を加えていた」ともいえ、輸入車とすることで生産関係の投資なしで選択肢を増やしていた点は立派だった。
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SX4 Sクロスはいろいろなことが限られていたなかで頑張っていただけに、不憫なクルマだ。もし次期SX4 Sクロスがあり、日本にも導入されるなら輸入車なのは構わないので、もう少し本腰を入れた体制でやり直させてあげたいところだ。