2020年はコロナ禍で各メーカーの販売台数は落ち込んだ。登録車は228万527台と、2011年の東日本大震災以来の300万台割れ、軽自動車の年間販売台数171万8088台を合わせた総合台数は459万8613台となり、4年ぶりに500万台割れとなった。
全体的に低調に終わった2020年の新車販売において、日本のトップシェアメーカーのトヨタも前年比を下回ったが、登録車のシェアが初めて50%を超えた。
苦境になればなるほど、トヨタの強さが際立ち、一強の様相を呈しているわけだが、その盤石とも思えるトヨタにも不安要素、死角はある。
本企画では、トヨタの抱える不安要素について御堀直嗣氏が鋭く指摘する。
文/御堀直嗣、写真/TOYOTA、LEXUS、NISSAN、MERCEDES-BENZ、平野学、奥隅圭之
【画像ギャラリー】驚異的な販売力は健在!! 2020年登録車販売BEST15にトヨタ車は11台がランクイン!!
トヨタが初の登録車年間シェア50%超を達成!!
2020年の新車販売は、新型コロナウィルスの影響で落ち込んだが、それでも全体の販売台数の50%以上がトヨタ車であったことが、日本自動車販売協会連合会と、全国軽自動車協会連合会の統計から明らかになった。
登録車販売でトヨタは、51.1%。軽自動車を含めた全体でもトヨタは、32.7%に達する。
国内販売でのトヨタの強さは以前から知られるところであり、8年前の2012年に48.6%に達したが、実は1959年以降の統計で50%を超えることはこれまでなかったのであった。そしてもちろん、50%超えは国内自動車メーカーとして初めてのことである。
昨2020年の国内新車販売動向を振り返ると、1~3月の序盤は、トヨタ、ホンダ、日産が上位を競いあう展開だった。
だが、新型コロナウィルスの緊急事態宣言の4月以降は、トヨタの強さが際立ちはじめ、9月には上位5車種がトヨタ車による独占状態となった。さらに11月には7位までがトヨタ一色である。
年明けとなって、自動車部品の半導体の購買に支障が出たとして、日産やホンダが減産を余儀なくされることになるとの情報が出てきた。その予兆が、2020年末から始まっていたのかもしれない。
なおかつ、トヨタは全国の販売点数が5000店を超えるのに対し、日産やホンダは2000数百店である。2倍近い販売力の差もあるだろう。
顧客の嗜好に適したクルマ作りをするトヨタの強み
別の視点では、トヨタはこれまで国内専用ともいえる5ナンバー車の投入を愚直に続けてきた。カローラが現行車で3ナンバー化したが、それでも極力プリウスの横幅を超えない範囲に抑えようと努力し、世界共通で販売するカローラスポーツより車幅は狭い。
いっぽうで、日産は、2006年にカローラの競合であったサニーを終了し、サニーやパルサーを受け継ぐかたちで誕生したティーダも、国内販売は初代のみで2012年に終了している。またマーチも、10年間モデルチェンジしないまま、存在感を薄くしている。
ホンダは、15年前の8代目シビックを3ナンバー化し、米国仕様を主体とした開発に転換し、以後、シビックの存在は希薄となった。しかしホンダは、新型フィットで日本最適のコンパクトカーをグリーバルカーとして育てるとの意思も示しはじめている。
2020年のトヨタ車の販売上位の車種を確認すれば、ヤリス、ライズ、ルーミー、シエンタ、そしてカローラが常連であり、カローラ以外は5ナンバー車だ。
ただし同時に、アルファードやハリアーが上位にいるところに、顧客の嗜好に適したクルマ作りをするトヨタの強みがある。
新型コロナウィルスの感染拡大で、在宅時間が増えるとともに、外出する際にクルマを利用することで不特定多数の人との接触を避けたいとの気持ちが、5ナンバー車を買うという行動を後押ししたのではないかと、販売実績から推測できる。
中古車販売の好調や、レンタカー、カーシェアリングの利用増なども、同様の傾向の表れだろう。
なおかつ、久しぶりに代替えをする、あるいはしばらくクルマを手放していた人が新車を探すというとき、トヨタの販売店は数の多さも含め見つけやすく、また概してトヨタの営業はみな親切であり、温かく迎え入れてくれ、後々の面倒見もよい。日本最大手の自動車メーカーだから無難な商品だろうとの信頼もあるだろう。
グローバル企業として世界で事業の繁栄を求めるのはどの自動車メーカーも同じだろうが、国内市場の縮小をいわれながら、国内を大切に扱ってきたトヨタへの信頼や安心が、いよいよ50%超えという市場占有率を達成させたのではないか。
EVを作れることと売れることは大きく違う
いっぽうで、トヨタに死角はないのかというと、ひとつある。それは電気自動車(EV)の品揃えがないことだ。
数年前から、トヨタは23年に及ぶプリウスなどハイブリッド車(HV)の開発と販売実績から、EVはいつでも作れると言ってきた。それは事実だろう。
しかし現実には、国内にトヨタブランドのEV商品はなく、海外でも発表は行われているが、販売はこれからだ。つまり、EVを売った経験はほぼ皆無に等しい。
かつて米国でRAV4 EVなど、限定的に販売したことはあるが、不特定多数の消費者が自らの意思でトヨタのEVを選ぶ状況は十分に経験していない。
ホンダは、昨年ようやくホンダeを市販した。ホンダ独創のEVとして高い商品性を持つが、国内販売台数は1000台という限定的な内容だ。
市街地での利用を主体とした一充電走行距離という明確な開発方針での導入だが、いざ空調を利用しながら冬に利用してみると、実走行距離は160km程度という情報も耳に届く。EV利用はまだ黎明期であり、多くの消費者にとってその数字は不安材料となるかもしれない。
ホンダe開発者は、販売してみて、改めてやるべきことをたくさん発見したとも述べている。つまりEVは、これまでのエンジン車やHVとは違ったとらえ方や使い方が求められる商品であり、クルマとは何かという概念をゼロから見直すことが求められる。
すなわちEVにおいては、作れることと、売れることとは違うのであって、何をすべきかは、売って、消費者の声を聴いてみなければわからないのである。統計データからは見えてこないところに、EV成功の鍵が潜む。
選択肢の有無、多寡が業績を左右
トヨタの販売店では、日産リーフが2代目へモデルチェンジし、初代の苦労が反映された商品となっているうえ、輸入車のEVも現れるようになり、トヨタにEVの選択肢がないことに不安を覚えているとの声がある。
新車販売が好調で儲けが出ているいまのうちに、EVの営業を体験しておきたいというのが、トヨタ販売店の最前線の本音だ。彼らは、EV販売のコツを早く肌で体験したいと思っているのである。
これに対し、2年前の記者会見で当時の寺師茂樹副社長は、「国内向けのEVは、2030年までに日本最適の商品として出したい」と語っており、実際、トヨタの販売店にEV情報は噂さえ届いていないとのことだ。
国内には、マンションなど集合住宅で200Vの普通充電コンセント設置しにくいといった大きな課題がある。
しかしそれでも、競合他社にEVがあるのに、トヨタ車にない状況は、現在、5ナンバー車を中心に国内シェア50%超えを達成したトヨタに対し、5ナンバー車の選択肢の少ない日産やホンダの状況と似ている。
選択肢がない、選択肢が少ないことが、業績を左右するのである。
トヨタがいつまでもEVを市販しないうちに、市場は激変する可能性がある。国産車に限らず輸入車にEV希望の消費者を奪われてしまう可能性は少なくない。
そのとき、次にトヨタに戻ってくれる人がどれほどいるだろうか。
また、シェアリングによる共同利用が普及したら、トヨタ車を選んでくれる人があるかどうか、予断を許さない。
10年後の市場は激変すると、私は考えている。トヨタといえども、危うい時代が来るかもしれない。