顧客の嗜好に適したクルマ作りをするトヨタの強み
別の視点では、トヨタはこれまで国内専用ともいえる5ナンバー車の投入を愚直に続けてきた。カローラが現行車で3ナンバー化したが、それでも極力プリウスの横幅を超えない範囲に抑えようと努力し、世界共通で販売するカローラスポーツより車幅は狭い。
いっぽうで、日産は、2006年にカローラの競合であったサニーを終了し、サニーやパルサーを受け継ぐかたちで誕生したティーダも、国内販売は初代のみで2012年に終了している。またマーチも、10年間モデルチェンジしないまま、存在感を薄くしている。
ホンダは、15年前の8代目シビックを3ナンバー化し、米国仕様を主体とした開発に転換し、以後、シビックの存在は希薄となった。しかしホンダは、新型フィットで日本最適のコンパクトカーをグリーバルカーとして育てるとの意思も示しはじめている。
2020年のトヨタ車の販売上位の車種を確認すれば、ヤリス、ライズ、ルーミー、シエンタ、そしてカローラが常連であり、カローラ以外は5ナンバー車だ。
ただし同時に、アルファードやハリアーが上位にいるところに、顧客の嗜好に適したクルマ作りをするトヨタの強みがある。
新型コロナウィルスの感染拡大で、在宅時間が増えるとともに、外出する際にクルマを利用することで不特定多数の人との接触を避けたいとの気持ちが、5ナンバー車を買うという行動を後押ししたのではないかと、販売実績から推測できる。
中古車販売の好調や、レンタカー、カーシェアリングの利用増なども、同様の傾向の表れだろう。
なおかつ、久しぶりに代替えをする、あるいはしばらくクルマを手放していた人が新車を探すというとき、トヨタの販売店は数の多さも含め見つけやすく、また概してトヨタの営業はみな親切であり、温かく迎え入れてくれ、後々の面倒見もよい。日本最大手の自動車メーカーだから無難な商品だろうとの信頼もあるだろう。
グローバル企業として世界で事業の繁栄を求めるのはどの自動車メーカーも同じだろうが、国内市場の縮小をいわれながら、国内を大切に扱ってきたトヨタへの信頼や安心が、いよいよ50%超えという市場占有率を達成させたのではないか。
EVを作れることと売れることは大きく違う
いっぽうで、トヨタに死角はないのかというと、ひとつある。それは電気自動車(EV)の品揃えがないことだ。
数年前から、トヨタは23年に及ぶプリウスなどハイブリッド車(HV)の開発と販売実績から、EVはいつでも作れると言ってきた。それは事実だろう。
しかし現実には、国内にトヨタブランドのEV商品はなく、海外でも発表は行われているが、販売はこれからだ。つまり、EVを売った経験はほぼ皆無に等しい。
かつて米国でRAV4 EVなど、限定的に販売したことはあるが、不特定多数の消費者が自らの意思でトヨタのEVを選ぶ状況は十分に経験していない。
ホンダは、昨年ようやくホンダeを市販した。ホンダ独創のEVとして高い商品性を持つが、国内販売台数は1000台という限定的な内容だ。
市街地での利用を主体とした一充電走行距離という明確な開発方針での導入だが、いざ空調を利用しながら冬に利用してみると、実走行距離は160km程度という情報も耳に届く。EV利用はまだ黎明期であり、多くの消費者にとってその数字は不安材料となるかもしれない。
ホンダe開発者は、販売してみて、改めてやるべきことをたくさん発見したとも述べている。つまりEVは、これまでのエンジン車やHVとは違ったとらえ方や使い方が求められる商品であり、クルマとは何かという概念をゼロから見直すことが求められる。
すなわちEVにおいては、作れることと、売れることとは違うのであって、何をすべきかは、売って、消費者の声を聴いてみなければわからないのである。統計データからは見えてこないところに、EV成功の鍵が潜む。
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