EVでヒーターを使うとどれくらい電費が悪化するのか
PTCヒーターは、家庭用の電気ヒーターやドライヤーなどと同様、瞬時に温風を提供できる代わりに、電気を大量に消費する。
EVの暖房用に使われるPTCヒーターの最大消費電力は、小さいもので3kW、大型タイプでは7kWにもなる。単純に考えれば、暖房を1時間使えばEVが搭載するバッテリーの電力の1割前後を消費してしまうことになる。
もっともPTCヒーターは熱くなるまでは電力消費は大きいが、ある程度温度が上昇すると電力消費量は少なくなっていく特性がある。それでも暖房として熱エネルギーを提供し続けるとなると、それなりに電力を消費しつづける。
外気温と室内温度の差によって、冷暖房の消費電力は変わってくるため一概には言えないが、EVで空調を使うと電費は1割から3割程度低下する。短時間の移動で冷暖房を利用するような使い方が、一番電費を低下させるのだ。
EVで真冬を快適に走り、電費の低下を抑えるコツ
EVの多くがステアリングヒーターやシートヒーターを装備しているのは、車内の空気を暖めるより乗員を直接暖めた方が効率良く、消費電力を抑えられるからだ。
暖房を使うとしても設定温度は控えめにして、運転に支障ない範囲でウェアや毛布などを利用して、体温の放出を防ぐこともEVのバッテリーを温存する方法だ。最近は防寒着でカーボンヒーターなどを内蔵したものもある。
現時点でEVを利用しているユーザーは充電環境が比較的整っており、バッテリーの搭載量も以前と比べ増加傾向にあるため、冷暖房による電費の低下はそれほど気にならないようだ。
EVだからと、あまり使い方に神経質になっては維持していくのが辛くなるから、こうした状況は望ましいものだ。
しかし、今後EVが増えていくと充電環境は不足気味の状態が続き、電気料金も上昇する可能性が高いから、できるだけ電費は高い数値を維持していくようにしたい。
そういった意味でもEVの暖房能力は、今後改善しなければならない大きな課題と言えるだろう。
ヒーター以外の部分での改善も課題
EVやPHVの暖房能力を改善するには、色々なアプローチがある。クルマの断熱性能を高めるのも有効な手段だ。車体の重量をあまり増やさずに断熱性を高められれば、冷暖房に費やす電力を抑えられる。
ボディの塗装で断熱性を高めたり、ウインドウガラスに断熱性の高い中間膜を採用(フロントウインドウ用はすでにある)した断熱ガラスを採用するなどは、すぐにでも実用化できそうだ。
もちろん暖房システム自体の効率化も重要だ。レイアウトの難しさはあるだろうが、ヒートポンプ式エアコンの熱交換器とEVの冷却系を組み合わせて、外気よりも冷却液の温度が高ければ、それを回収してヒートポンプに利用するなど、サーマルマネージメントをフル活用してEVならではの空調システムを作り上げるのが理想ではないだろうか。
ちなみにトヨタのプリウスPHVはPTCヒーターを使わず、ヒートポンプだけで氷点下での暖房を実現している。これにより暖房時の消費電力は4割近く削減することができているのだ。
他にもバッテリーの低温特性改善やインバーターの変換効率改善、車体の軽量化など、電費を向上させるための課題はいくつもある。
本格的なEVの普及は、まさにこれから。こうしたネガティブな要素を1つ1つ潰していくことが、現実的なEV利用の実現につながる。車体側でもやらなければならないことは、たくさんあるのだ。
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