昨年(2020年)末、「2030年代半ばにガソリン車の販売を禁止する」という報道により、混乱が起きるなか、日本自動車工業会(自工会)会長、そしてトヨタ自動車社長 豊田章男氏が、政府、そしてマスコミに対して苦言ともとれる反論をした。
どのいった状況でこのような報道が生まれ、豊田氏はそうした報道の何について懸念を表明したのか? 正しい認識はどうあるべきなのか? ここで整理してみたい。
※本稿は2021年1月のものです
文/鈴木直也、写真/ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2021年2月10日号
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■「ガソリン車は禁止になる?」への反論
菅首相が就任後初の所信表明で「2050年カーボンニュートラル」を宣言して以来、クルマ業界では電動化へ向かう流れが大きく加速している。
それに拍車をかけたのが、「経済産業省は2030年代半ばに国内新車販売をすべて電動車とする方向で調整している」という報道だ。
2020年12月3日にこのニュースが流れると、こういう話題に無関心だった人にも少なからぬ反響があり「将来ガソリン車は禁止になるの?」と不安を抱く人が急増している。
これは、大手メディアの報道で「2030年代半ばには新車の100%を電動車に」とか「ガソリン車の新車販売を2030年代半ばに禁止」といった見出しが躍っていた影響が大。
多くの人が「2030年代半ばには電気自動車(EV)以外は販売禁止」と誤解してしまったわけだ。
■国家のエネルギー政策の変革が必要
これに苦言を呈したのが、豊田章男自工会会長だ。
昨年(2020年)12月17日に行われたオンライン会見で、さまざまなデータを挙げながら「電動化=EVではない」こと、「カーボンニュートラルはエネルギー政策の転換なしには達成が難しい」こと、「日本の基幹産業であり雇用吸収力の大きい自動車産業のビジネスモデルを崩壊させていいのか」などの課題に言及。
「ぜひ、メディアの方々には正しい情報開示をお願いしたい」と訴えた。
(※編集部注/豊田社長が言及したのは「メディアの方々へ」だということに注意したい。政治家でも国民でもなく、まずはメディアが(それはもちろん弊誌も)誤解を招くような表現は避けることが、カーボンニュートラルへ一歩ずつ進む道での重要な課題なのだということなのでしょう)
豊田会長はまず、自動車業界が長年CO2削減に努力してきた成果について、この10年で生産時に36%、燃費では2001年度比で71%もの改善を果たし、電動車比率についてもノルウェーについで世界2位(35%)にあることを説明。
その上で、「2050年カーボンニュートラルを達成するには、国家的なエネルギー政策の転換が不可欠であることをご理解いただきたい」と語る。
たとえば、日本では電力の約77%が火力発電によって作られているが、フランスは原子力中心なので火力は11%ほど。
そうなると「当社の例になりますが、ヤリスというクルマを東北で作るのとフランス工場で作るのでは、同じクルマでもカーボンニュートラルで考えるとフランスで作っているクルマのほうがいい。そうしますと、日本ではこのクルマは作れないということになってしまいます」と問題を提起する。
そういう事態になれば、日本経済への影響は不可避。
自動車産業は日本のGDPの約1割、輸出の約2割を占め、関連産業まで入れると約540万人を雇用する基幹産業。
環境(CO2削減)も大事だけれど、経済を回し、雇用を守り、税金を払ってゆくことも同じくらい重要。
カーボンオフセット達成には自工会をあげて全力でチャレンジするけれど、「画期的な技術ブレークスルーなしには達成が見通せず、サプライチェーン全体で取り組まなければ、日本の自動車産業の競争力を失うおそれがある」と懸念を表明。
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