■400万台すべてのクルマをEV化すればどうなるか?
EVに関しても、豊田会長は「乗用車400万台をすべてEV化したらどういう状況になるか」という視点から、発電能力を10~15%増やす必要があること、充電インフラ整備に必要なコストとして約14兆円から37兆円を要するという試算、現在の30倍以上と予想される電池の供給能力など、数々の課題があることを指摘した。
これはかなり勇気の要る発言だったと思う。
「地球の環境を守ろう!」というスローガンは誰も反対できない「錦の御旗」で、現在はCO2削減がその主要テーマ。
一部の人にとってそれはある種の信仰に近いもので、自動車に関してはEVがその“ご本尊様”となっている。
EV至上主義の人によると、ハイブリッド車は「低炭素」ではあっても「脱炭素」ではあり得ないんだそうで、それに異議を唱えるのはたいへんな「罰あたり」ということになってしまうのだ。
しかし、そもそも日本全体のCO2排出量のうち自動車が占める割合は約16%で、いまEVに置き換えようとしている自家用乗用車はその半分でしかない。
さらに、前述のとおり日本の電力は約77%が火力発電に依存している。
つまり、日本にある乗用車すべてをスクラップにしてもCO2は8.5%しか減らないし、すべてをEVに置き換えても4%削減がいいところ。
だったら、粛々と内燃機関の効率を高めつつ、その延長として電動化比率を高めてゆく方が合理的という考えもアリなのだ。
■日本はどの道を選ぶのが正しいのか?
つまるところ、性急な電動化シフトは世界に向けていい顔ができるが経済へのダメージが懸念され、逆に内燃機関と電動化の両立をはかると、経済への影響は少ないがガラパゴスと揶揄されるというだけの違い。
ゴールは同じでも国によってそれぞれ事情が異なるのだから、それぞれ自分に適した道を歩めばいいだけのことなのだ。
豊田会長は最後に「これがこの国にとっていいことか悪いことか、それはみなさまのご良識にお任せいたしますが、自動車産業はそういうギリギリのところに立たされております」と危機感を表明したが、ビジネスがきちんと回らなければ環境対策に投資する余裕すら生まれないのが現実。
日本はどの道を選ぶべきなのか、自動車業界人のみならず、これはすべての日本国民にとって重要な問題だと思うなぁ。
●豊田会長の発言&注目のデータ
・カーボンニュートラルは、国家のエネルギー政策の大変革なしには達成できない
・自動車業界ではCO2排出量は2001年度と2018年度比で、2.3億トンから1.8億トンと22%削減、平均燃費もJC08モード燃費が13.2km/Lから22.6km/Lに71%向上。次世代車の比率は、2008年度の3%から2019年度の39%へと36ポイントアップしている
・EV生産で生じる課題としては、例えば電池の供給能力は現在の30倍以上が必要で完成検査時には50万台/年の工場なら、1日あたり家5000軒ぶんの電気を充放電
・400万台の保有をすべてEVにすると10~15%増の充電能力が必須。これは原発で+10基、火力発電なら+20基必要な規模。充電インフラに約14兆~37兆円かかると試算
・電動化=EVではないが、そう感じるようなミスリードがある
・コロナ禍において、就業者数が日本全体では93万人減に対し、自動車業界は11万人増。クルマを作れなければ、雇用はどんどん減少していく
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