自動運転はトラックと物流業を救えるか? 【自律自動運転の未来 第10回】


 自動運転にまつわる連載企画、第10回となる本編は、トラックと物流業界と自動運転の関りについてです。

 少しでも自動運転技術に関心のある方であれば、「自動運転といえばトラック」と考える人も多いはず。決まった場所から決まった場所への移動が多いこと、車両本体価格が高く高額デバイスを搭載しやすいこと、長距離運行であること、高速道路の利用頻度が高いこと、ドライバーが不足していることなどなど、多くの理由によりトラックは自動運転技術のゆりかごとして機能してきました。

 では、この2021年初夏現在、トラックの自動運転技術はどれほど進んでいるのか? 完全自動運転は見えてきているのか? 西村直人氏に伺いました。

文/西村直人 写真/Adobe Stock(アイキャッチ画像は@Imaging L)

シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る

■トラック業界は自動運転の主戦場のひとつ

 自律自動運転の世界は、乗用車(いわゆるオーナーカー)に留まりません。物流業で活躍する商用車(小~大型トラック)にとっても重要な技術です。

 表向きは乗用車が主体となって進む自動運転技術の開発ですが、並行して商用車における開発も2000年代に入り盛んに行われています。生産財である商用車は文字通り“はたらく車”であり、一見すると自動運転技術とは関係性が薄いように思われますが、じつは労働環境の改善や、効率的な物の移動に向けた救世主として自動運転技術に期待が寄せられているのです。

トラック業界は自動運転技術の最前線。物流が自動化してコストやリスクが下がることは、あらゆる商品の価格に関連しており、たとえトラック業界とは無縁の人でも大きな影響がある

 メルセデス・ベンツは2013年に「S500インテリジェントドライブ」と称して乗用車でありメルセデス・ベンツのフラッグシップセダンであるSクラスで、約100kmに及ぶ公道における自動運転技術の実証実験を成功させています。

 よって、このSクラスが搭載した自動運転技術を大型トラックへ転用すれば話が早そうですが、実際はそう簡単にはいきません。商用車、とりわけ大型トラックのようなGVW(車両重量+積荷+乗員)で25tもの大型トレーラーともなると、乗用車向けの技術では制御に遅れが生じるからです。

 たとえば、加減速の制御にしても、積荷の重さによってアクセルの踏み込み量やブレーキの掛け具合、そしてタイミングが大きく変わります。また、路面が上り勾配か、下り勾配かによっても車両の動きに違いが生じます。

 具体的には、自重よりも重い積荷を積載している場合の加速力は、カラ荷、つまり荷物を積載していない時の半分以下となり、さらに積荷の重心位置によってはコーナリング性能が極端に落ちて車両横転の危険性が高まるなど、積荷が車両挙動に大きな影響を及ぼします。

 そこで重要になるのが、目まぐるしく変化する大型車の車両特性に応じた専用の自動運転技術であり、そこでは乗用車以上のフィードフォワード制御が求められます。

 一方、商用車の自動運転技術も市販化を前提とした技術開発なので、車両価格を抑えるためにメルセデス・ベンツでは当初から車載センサーやソフトウェアの開発を乗用車と大型車で共有しコストダウンを図ってきました。

■各トラックメーカーが本気で取り組み中

 過去、メルセデス・ベンツの乗用車部門と商用車部門は旧ダイムラーAGグループであったことから、可能な限り車載センサーは同じ種類に統一していた経緯があります。

 2019年11月にダイムラーAGグループは分社化され、現在、大型商用車は独立したダイムラー・トラックAGが担っていますが、今でも技術者の行き来は乗用車を担うメルセデス・ベンツAGとの間で行われています。

 ところで、スバルの「アイサイト」で知名度が上がり、その有用性から主流センサーのひとつになった2眼式の光学式カメラ(ステレオカメラ)ですが、メルセデス・ベンツの乗用車ではS/E/Cクラスを筆頭に、短/中/長距離用のミリ波レーダーセンサーと組み合わせた「フュージョンコントロール(融合型センシング)方式」として2013年から市場に導入しています。

 このフュージョンコントロール方式というセンシングの考え方は、単眼式光学カメラへの変更を受けながら商用車(大型トラック)にも受け継がれました。

トラックの自動運転技術は、欧州、アメリカ、そして日本と、世界各国で積極的に開発が進められている

 欧州地域ではメルセデス・ベンツ「アクトロス」、北米地域ではフレートライナー「カスケディア」、そして日本を含めたアジア地域では三菱ふそう「スーパーグレード」にフュージョンコントロール方式が用いられ、世界初の大型トラックにおける自動化レベル2技術「アクティブ・ドライブ・アシスト」(2019年)として実装されています。

 そしてダイムラー・トラックAGでは、これまで培った高度運転支援技術をベースに、2029年までには自動化レベル3を飛び越えて(=レベル3は実装せずに)、自動化レベル4の技術を搭載した大型トラックを世界で販売すると明言しています。

 一方、日本の商用車における自動運転技術の開発はどうでしょうか?

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