EVシフトへ加速か? 首都高料金割引案浮上への是々非々!!


 都内を網の目のように張り巡らされた首都高速。誕生から60年を経て、今も首都の大動脈としての重責を果たしている。その間、社会情勢に合わせ料金体系が何度も変更されており、その都度注目される。その首都高が今度は脱炭素社会実現に向けた取り組みを検討中で、また注目を集めそうだ。

 その「検討中」の取り組みとはZEVの首都高割引制度だ。首都高の料金優遇制度が日本でなかなか売れない電気自動車や燃料電池車の普及に向けた追い風になるのか?東京都の狙いとその効果について検証してみたい。

文/清水草一写真/Adobe Stock、ベストカー編集部

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■ゼロエミッション・ビークルへの割引は妥当なのか!?

 昨夏に開催された東京オリンピックの交通渋滞緩和のひとつとして、首都高速道路のマイカーの通行料金が、通常料金に1000円上乗せされたことは記憶に新しい。

初の首都高が開通したのが1962年12月。つまり今年で60周年となる。東京五輪(初代)の開催に向け用地買収の必要のない川の上に建設された区間も少なくない。今となってはその保守や景観悪化が問題視されている。今回の施策が環境に目をそらさせる意図的な施策でなければいいが

 その首都高が、今度は、電気自動車(EV)など「脱ガソリン車」の普及策の切り札として一役買う「妙案」が浮上している。

 昨年の東京都議会定例会の主要会派による代表質問で、小池百合子都知事が環境問題について、排ガスを出さないゼロエミッション・ビークル(ZEV)の首都高料金割引を目指すという方針などを表明したのだ。

今年以降、トヨタもBEVの市場投入へ本腰を入れる。そこに首都高の料金割引も始まれば、ニッポンでもBEV普及へ向けた動きが一気に加速するのか??

 都民ファーストの会の小山有彦都議から、ZEVの普及策について問われた小池知事は、高速道路料金の決定権を持つ国に対し、首都高でのZEVの料金割引を要請していることを明らかにするとともに、「導入への強力なインセンティブ(動機付け)になる」と強調。「今後、さらに、全国の自治体へ、国への要請を働きかける」とも語った。

 果たしてZEVに対する首都高の料金割引策は妥当なのか? 高速道路研究家の清水草一氏の意見を聞こう。

首都高の優先割引がZEVの普及につながるのか?と言えば微妙なところだ

 ZEVに対する首都高の割引は、普及に効果があるのか? と問われれば、「それぞれのユーザーの使い方と割引率による」と答えるしかない。

 通勤で日常的に首都高を使っているユーザーの場合、仮に料金が100%割引になれば、片道700円(≒平均利用料金)と仮定して、平日毎日往復利用すると、月に2万8000円の節約になる。年間だと30万円以上。これは強力なインセンティブだ。

 しかし、純粋な通勤目的のため、日常的に乗用車で首都高を利用しているユーザーはかなりかぎられる。毎日のように首都高を使っているクルマは、トラックなどの物流関係や商用車が大部分だ。首都高は基本的に「お仕事で使う道路」なのである。もちろん通勤もお仕事ですが、運ぶ荷物なしの通勤利用は、非常に贅沢という感覚になり、一般的には行われていない。

高速道路の有効活用のため、料金割引は有効策だ。そこにメリットを感じてZEVの普及に一役買うかもしれない。しかし、利用の大半を占めるのはZEV化が進んでいない商用車なのだ

 トラックや商用車のZE(ゼロエミッション)化を後押しするのも重要な施策だが、現状、ようやく導入され始めたEVトラックは、地域拠点から個別配送を担う「ラストワンマイル」向けで、首都高を頻繁に使うことは考えにくい。今後、長距離走行可能なZE大型トラックが登場しても、首都高だけの割引では効果は低い。

首都高の乗用車1台当たり走行回数は年間数回程度。これでは効果も限定的

 現状、すでにEVの商品ラインナップが拡充しつつある乗用車に関しては、毎日首都高を使うユーザーは極めて少ないのが現状だ。そこそこヘビーユーザーの私でも、月に10回程度しか使っていない。つまり月間約7000円、年間8万円ほどだ。年間8万円安くなるならEVにしよう、と思う人が、どれくらいいるだろう。

 しかもこれは、100%割引を前提にした計算。割引率が低ければ、その分インセンティブは減少する。仮に50%割引なら年間4万円。30%程度なら、効果はほとんど期待できない。

首都高速含め、高速道路の料金割引で一気に普及した代表例がETCだろう。今や普及率は80%を超える。同様のことがZEVに起きるか? と言われれば、現状では困難だろう

 また、ZEVへの過度な割引は、将来に禍根を残す。ZEVが主流になった時には、首都高への交通集中を助長することになるし、首都高の料金収入も激減して、維持管理がままならなくなる。よって割引は、ZEVの普及に合わせて縮小する必要がある。

 小池都知事としては、まずは首都高の割引から始めて、それを全国の高速道路に広げたいという思惑だろう。かつて石原都知事は、ディーゼルトラックの排ガス規制を先んじて都で行い、国を動かした前例もある。その再来を狙っていると思われる。

ZEV高速料金優遇が全国的になれば商用車への普及には有効だが……

 ZEVへの高速道路料金割引が全国に広がれば、効果は段違いだ。真っ先に反応するのは物流業界だろう。なにしろ高速道路の利用頻度が、乗用車とはケタはずれだからだ。

 トラックの場合、大幅な重量増が避けられないBEV(バッテリーEV)化は今のところ難しいので、FC(燃料電池)への転換が有力だ。現状はまだ商品化されておらず、トヨタと日野が共同で開発したFCトラックの実証実験が、2022年春から始まるといった段階だが、将来的には有力な普及策になるはずだ。

日本の高速道路利用頻度で言えば、乗用車より商用車が圧倒的に高い。その商用車のZEV化を進めるために料金割引は有効だが、肝心の車両開発やインフラ整備がこれからといった状況だ

 ただし、これも永遠に割引を続けると、料金収入の大幅減を招くため、ある程度時限的な措置にとどめる必要はある。

 ZEVに対する料金の大幅割引が、全国の高速道路に広がった場合、乗用EVの高速道路利用は間違いなく増加するが、現状でもSA・PAの急速充電器の数が不足しているから、そちらも国が強力な設置推進策を打ち出す必要がある。

日本のカーボンニュートラルはまずは発電から始めるべきではないか?

 ただ、今のところ政府はハイブリッドを含む電動車の普及に力を入れるのみで、EVを本格的に普及させようとはしていない。EV購入時の補助金は拡充されつつあるが、予算にかぎりがあるので、売れすぎたらそこで打ち切りになる。つまり、そもそもあまり多くの台数が売れることを想定していない。

温暖化防止と内燃機関の関係は!? カーボンニュートラルのこれまでとこれから【前編】
日本の電源構成はいまだ火力が大半を占める。再生エネの割合は1ケタ代で、2030年目標でようやく2割そこそこ。そのなかで大量の電力を消費するBEVの普及を進めることが環境に優しいとは言い難い

 その背景には、日本の電源構成がある。火力発電が全体の75%を占める現状では、EVよりもハイブリッドのほうが環境負荷は小さい。日本の場合、地勢的な理由もあって、再生可能エネルギーの急激な拡大は望めず、原発の再稼働も牛歩。EV普及に全力で取り組めば、逆にCO2排出量が増えてしまう。FCも、水素をどうやって生産するかが問題だ。

 いずれにしろ、まずは発電のカーボンフリー化から始めないことには意味がないのだが、日本の場合、それが猛烈に難しく、解決策が見えていないのだから、ZEVに対する首都高の割引策といった「小技」は、根なし草のようなものだと言えるだろう。

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