テスラは今後破滅するのか? それとも躍進するのか?

テスラは今後破滅するのか? それとも躍進するのか?

 欧米メディアで最近、テスラの事業に関するさまざまな憶測が飛び交っている。なかでも、資金難に関する報道が目につく。

 直近の2018年8月7日にはイーロン・マスクCEOは自身のツイッターアカウントで「テスラの株式を1株式あたり420ドルで非公開化しようと考えている」とツィートしたが、8月24日には株式非公開をやめ、上場企業のまま経営していくと発表、あまりの支離滅裂ぶりに驚いた人も多いはずだ。

 果たして、テスラの実情はどうなっているのか? テスラはこれからも、これまでのように世界最先端EVメーカーとして君臨し続けることができるのだろうか? モータージャーナリストの桃田健史氏が解説する。

文/桃田健史
写真/ベストカー編集部
初出/ベストカー2018年9月10日号


■聞こえてくるいい噂と悪い噂

モデルSのP160Dは1718万3000円!

 テスラに対するメディアでのアゲインストな風が吹き始めた背景には、2年ほど前から発生した世界的なEVブームがある。EVブームになれば、テスラが優位になると思われがちだが、そう簡単な話ではない。

 まず確認しておきたいのは、今回のEVブームの火付け役がテスラではなく、フォルクスワーゲングループ(以下VW)であるということだ。

 周知のとおり、2015年に発覚したディーゼル不正問題はVWのブランドイメージを失墜させるほど衝撃的な出来事であり、アメリカとドイツの当局によるVWグループへの調査は現在進行形だ。そのVWが2016年に発表した中期経営計画「トゥギャザー」で大胆な「EVシフト」を打ち出し、数兆円レベルでEV用のリチウムイオン電池、モータ、制御装置などを一括購入すると表明した。

 この流れに、VWを含めてジャーマン3と呼ばれるドイツ大手のダイムラーとBMW、さらには大手部品のボッシュとコンチネンタルが相乗りしたことで、世界的なEVブームが動き出した。

 ジャーマン3は今後5~10年間にそれぞれ数十モデルのEVを市場投入する。そのなかでテスラにとって大きな影響を及ぼすのが、ポルシェの「タイカン」だ。「ミッションE」というプロトタイプで登場した後、2019年からの量産化が確定している。

「タイカン」の動力性能や電池容量を見ると、明らかにテスラ「モデルS」潰しであることがわかる。また、今年3月のジュネーブショーに登場したクロスオーバー車の「ミッションEクロスツーリスモ」はテスラ「モデルX」潰しである。

 このほかアウディやBMWもテスラを意識したEVの量産化を虎視眈々と狙っている。

■中国でのEVバブルをどう見るか?

 もうひとつ、EVブームの背景にあるのがNEV(ニューエネルギーヴィークル)法だ。中国政府が導入を進める電動車の普及政策である。

 中国政府は米カリフォルニア州政府と協議することで、同州が進める電動化政策のZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)法を参考としたNEV法を作り上げた。

 テスラにとっては、米ZEV法を足がかりに事業成長してきただけに、今回の中国NEV法についても有効に活用しようと考えている。NEV法では、2019年までに中国自動車市場の10%、また2020年には12%を電動化することを義務づけている。

 こうした中国での強引ともいえるEV普及策によって、中国市場では今、EVバブルが起こっている。第一汽車、東風汽車、上海汽車、長安汽車など中国地場大手は、EVの自社開発、または中国事業でパートナーを組む海外メーカーとEVの共同開発を急いでいる状況だ。先に紹介したVWを中核とするジャーマン3も、すでにパートナーを組んでいる中国地場大手に加えて、中国地場の中堅メーカーと新たにEV共同生産を打ち出す動きが活発化している。

EVとしての出来のよさはピカイチなモデルS

 さらには、EVバブルの恩恵を一気に受けようとEVベンチャーを立ち上げる動きが続いている。昨年の上海モーターショー、そして今年の北京モーターショーでは、フォーミュラE選手権でおなじみのNextEV社が展開するNIO(ニオ)、BMWの元エンジニアらが立ち上げたBYTON(バイトン)、さらには吉利汽車とボルボが共同開発するベンチャーブランドのLynk & Co (リンクアンドコー)など、EVベンチャーが花盛りといった様相だった。

 当然のことだが、中国EVベンチャーが商品開発のベンチマークとしているのがテスラだ。なかでも、「モデルX」を意識したクロスオーバー系のSUVが目立つ。中国市場では近年、若い世代を中心にセダンからSUVへのシフトが強まっているからだ。

3列目シートの乗り降りを考慮し、ガルウイングドアとしたモデルX

 中国EVベンチャーたちの特徴は、テスラに比べて価格が安いことだ。現状でテスラは米カリフォルニア州の本社工場のみで生産されており、中国向けや日本向けに輸出されている。中国では海外からの輸入車への関税が高く、新車価格も跳ね上がる。さらに最近は、トランプ政権の保護主義政策への対抗として、中国政府が報復関税を課す動きがあり、テスラにとって中国国内生産は必須である。

 加えてテスラにとって痛手なのは、中国EVベンチャーたちによる価格破壊だ。中国EVベンチャーが販売する車両価格は、テスラが現在アメリカで発売している価格の5割安、あるいは半値程度とかなり安く、テスラにとって厳しい状況だ。

 テスラとしては、EVベンチャーとしてこれまで培ってきた開発力に加えて、テスラというブランド力を最大限に発揮するマーケティング戦略を駆使しなければならない。

新ライン増設で週6000台の生産を目指すモデル3

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