■インパネ式からダイヤル、ボタンまで
インパネ式の変速機構の設計面でのメリットは、リンクなどを介することなくアクチュエーターなどの電子制御によって、シフト位置の選択・操作などを把握して変速する“シフト・バイ・ワイア”機能が実現したことで、レイアウトの自由度が格段に増したことにある。
この結果、インストルメントパネルや室内中央部のパネル/コンソールの限られた“土地”の中で、シフト機構の位置決めに関してデザイナーを含む作り手の意思が反映されやすくなり、室内の機能部品のデザインの可能性も広がった。
いっぽうで機能性の向上とともに、自由度が高いがゆえに、プレミアムブランドのインテリアデザイナーはシフトレバーのデザインや位置決めによって、デザイン上での高級感をどう演出するかに頭を悩ましているに違いない。
たとえば、変速ポジションを選択する機能をダイヤル式セレクターも現われ始めた。一連のジャガー(ランドローバー)がセンターコンソールからポップアップするダイヤル式を採用している。
いっぽうで、旧くは1950年代のキャデラックなどのアメリカ車に採用されていたボタン式も復活してきた。走行中は操作しないP/R/Nのポジションをボタンスイッチとしてシフトレバー周りから分離独立させて、レバー操作はDレンジでの変速のみとした例も出てきた。
たとえば、ホンダはアコードやクラリティのFCV/PHEV、今冬に日本に導入予定の新型インサイトに至るまで、P/R/N/Dのポジション選択にボタン式を採用するなど、操作性と見た目をシンプルに仕立てたデザインを生み出した。
スポーツカーメーカーでもシフトレバーの機能を整理する意味が大きい。フェラーリのDCT機構では「R」のスイッチを分離して、「N」のポジションの選択方法を含め、基本的なステアリング上のパネルスイッチで行う。
812スーパーファストやV8ミッドシップの488ピスタではセンターパネル下部にシフトボタンを用意。パドルシフトのみの操作系となっている。
ちなみに、レクサスLFAではギアチェンジをステアリングコラムに備わる“パドルシフト”機構のみで変速を実施していた。
量産EVの変速機構のデザインでは、メーカーごとに主張が明確になっていて面白い。BMW i3はステアリングコラムのレバーにスイッチを装備。
ジャガーI-PACEは他モデルのダイヤル式から一歩進んで、変速ポジションの選択をボタン式とするなど、各自動車メーカーのデザインコンセプトの個性が表れている。
最近になって正式発表されたアウディe-tronではボタン式を採用するいっぽう、EVメーカーのテスラモーターズの各モデルはコラムスイッチ式(メルセデスモデルとの共用品と想像される)を装備する。
最近では、マクラーレンが発表した新たなスーパースポーツ、スピードテールに採用された天井にあえるシフトボタンが話題になった。ドライビングに必要なシフト操作自体はパドルで行うからそのほかのスイッチは運転に邪魔にならないようなところに配置したのだろう。
また、シフトレバー自体も変化している。ボルボXC90T8に設定されたシフトレバーはスウェーデンのガラスメーカー、オレフェス社製だ。
さらにBMW8シリーズにもオーストリアのスワロフスキー社製クリスタルガラスのシフトレバーを採用するなどシフトレバー自体の形状や素材も進化している。ガラス製のシフトレバーといえば、50代以上の人は水中花を思い出すが……。
コメント
コメントの使い方