■昔ほどスポーツマフラーによる性能アップは期待できないワケ
マフラーが持っている本来の役割は、排気エネルギーを徐々に減衰させ、圧力と温度を下げるというもの。これによってマフラー出口での排気ガスの温度を下げ、排気音も音量を下げ、音質を整えるのだ。
マフラーの上流にある三元触媒(ディーゼル車は酸化触媒)は、排気ガス中のNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)といった有害成分をN2(窒素)、CO2(二酸化炭素)、H2O(水蒸気)に還元して無害化する。これによって厳しい排ガス規制をクリアしているのだから、触媒装置の存在は重要だ。
昔は触媒を外して(違法です!)抜けのいいマフラーを付けるとパワーが上がる、なんて言われたものだが、それは燃料噴射装置の電子制御がシンプルな構造だった頃の話。
ずいぶん前からガソリン車のインジェクションも制御が高度になっており、吸排気系のすべてとバランスを取るようになっているので、排気系を大きく変更してもそれだけでパワーアップは期待できない。
むしろ純正のマフラーは適度な排気抵抗を設定することにより、エンジンの吸排気性能のバランスを整えて充填効率を高め、低中速トルクを太らせたり、燃費を向上させるようチューニングされているのだ。
スポーツマフラーはこのバランスを高回転側にシフトすることで、ピークパワーを高めたり、伸びやかな加速を実現するのである。
ひと昔前、抜けのいい大径テールパイプのマフラーを装着して、発進時に何だか加速が鈍くなったと思ったクルマ好きはいないだろうか。
マフラー交換によって排気抵抗が減ると、低速域では吸気工程の最初にまだ排気バルブが開いている時(オーバーラップと呼ばれる状態)に新気が排気バルブから排気ポートへと流れ出てしまい、充填効率が落ちてトルクが減少してしまうのだ。
それでも高回転域ではバランスが取れて刺激的なフィールになるから、スポーティなフィールを重視するために抜けのいいスポーツマフラーを装着した走り好きも昔は多かった。
ターボ車については、マフラーの排気抵抗を減らすことにより、その上流にあるターボチャージャーからの排気ガスが抜けやすくなって、ブースト圧の立ち上がりが良くなったり、ブースト圧が向上することが期待できる。
ただし最近のターボ車のブースト圧はECUによって管理されているので、これも最近のクルマでは効果は限定的だ。
BMWなど欧州の自動車メーカーでは、エンジンの負荷に応じてマフラーの出口の片側をバルブで開閉させて、排気抵抗を調整する機構を採用している車種もある。これによって前述の低速トルクや燃費の向上を狙っているのだ。
フェラーリやランボルギーニなどスーパーカーのなかには、エンジン回転やドライブモードの設定変更でバルブを開閉させて排気系を切り替える機能をもつクルマも多い。
これは高回転域でのパワーによる走りのパフォーマンスと、ゆっくり走った時には排気音を抑えて周囲への配慮(騒音規制への対応も大きい)ができるもの。走行性能だけでなく、排気音など走行フィールの演出も大事なスーパーカーにとっては、こうしたマフラーのチューニングと環境規制への対応も重要なポイントになりつつある。
これらガソリンエンジン車の場合は、騒音規制の強化やカスタムブームの終焉も影響しているのだろうが、乗用車で大多数を占めるハイブリッド車の存在もスポーツマフラーの需要減に大きな影響を与えている。
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