2016年は高齢者の運転事故が数多く取り上げられた1年でした。今年86歳となった三本さんの「高齢者と運転」に関する考えとは?
本文では自らの経験談を交えつつ、三本さんが独自の視点で高齢者の運転にとって最も大切なことを提言しています。
初出:ベストカー2016年12月26日号 「三本和彦の金口木舌」
三本氏自身が80代になって感じた「運転視野」の狭まり
最近、高齢者による事故が頻発しています。
今年10月28日、神奈川県横浜市の市道で87歳の高齢者が運転する軽トラックが通学中の小学生の列に突っ込み、小学1年生が亡くなり、小学生4人を含む7人が重軽傷という事故がありました。
逮捕された合田容疑者は家族に「ゴミを捨てる」と言い残して家を出て行ったそうですが、24時間軽トラで走り続けた末に事故現場に辿り着き、本人もなぜそこへ行ったのかよくわからないと供述したと報じられました。
高齢者の免許返納についての詳細は別の機会に語りたいと思いますが、ボク自身が86歳の現役ドライバーなので、人ごとじゃありません。
80歳を超えると、60代の頃と比べて運転にどのような影響があるのか?
まず、運転中の視野が狭くなりましたね。運転席に座って真正面を向いて、片目で左右90度の範囲で物が見えることが望ましいといわれていますが、70歳を過ぎた頃から60度くらいに狭まってしまったような気がします。
スピードを出せば出すほど、視野が狭くなっていくのはみなさん知っていますよね。高齢になると、街中を走る速度域でも視野が狭くなるということです。
高齢者運転にとって最も大事なのは能力の衰えに対する「自覚」
次に反応時間の遅れ。ひとつのことであれば、若い人と比べても反応時間の遅れはあまりありません。
しかし、複数のこと、つまり交差点などで信号があって歩行者、自転車がいて、右左折するクルマが……と複数を同時に見て総合的に判断しなければいけない場合の反応時間が遅くなりましたね。
時々、トロい自分に腹立たしく感じることもあります。
さて、最後にボクが一番問題だなと思うのは、「自覚」ができるかどうかということです。
経験から来る過信に加えて、年をとるにしたがって衰えてくる運転能力を自分自身でわかっているかどうかです。ボクも昔のように運転できないことがわかっているので、なるべく夜間の運転を控えたり、スピードを出さないようにしています。
この「自覚」ができなくなったら、僕も運転免許証を返納しようと思っています。
三本和彦
1931年生まれ、東京都出身。東京写真大学(現在の東京工芸大学)写真技術科を卒業後、1956年より東京新聞に入社。その後フリーのモータージャーナリストに転身し、ベストカーを始めとするさまざまな自動車雑誌に寄稿、TV番組の司会なども務めた。現在はベストカーで月に1度「金口木舌」の連載を執筆している。
★【金口木舌(きんこうぼくぜつ)】とは…古代中国で官吏が法律などを民衆に示す際に木鐸(ぼくたく。口が金属、舌が木製の鈴)を鳴らしたことから、優れた言論で社会の教えを導く人の例えという意味
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