日本は本当に本気で2035年「電動車100%」を達成できるか?【短期集中連載:第四回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■2035年前に新車販売BEV100%は不可能

 さて本題の、「2035年までにクルマを全部BEV化できるか」だが、それはまず無理だ。

 現在自動車の動力用バッテリーの生産量は世界で年間1000万台分。2035年の年間自動車販売台数は1億1000万台と予想されている。果たして今から10年足らずで11倍の増産が可能だろうか? 特にバッテリー資源採掘の増加は厳しい。

 突然レアメタルの必要量が増えたところで、採掘機材も、技師も、労働力も、全部足りない。それらの増強を終えてからでないと、増産はできない。しかも「急ぐので環境対策は後回し、多少の環境汚染をしてでも早く採掘しろ」というわけには行かない。きちんと環境対策を行って、可能な限り低負荷で採掘をしなくてはならない。

たとえばコンゴ民主共和国(DRC)は世界最貧国のひとつであり、何十年も内戦や政情不安に苦しんでいるが、皮肉なことにPCやスマホ、電気自動車に必須のレアメタルの鉱脈が豊富であることがわかっている。その多くが「手掘り」で採掘されており、アムネスティにより児童労働も問題視されている
たとえばコンゴ民主共和国(DRC)は世界最貧国のひとつであり、何十年も内戦や政情不安に苦しんでいるが、皮肉なことにPCやスマホ、電気自動車に必須のレアメタルの鉱脈が豊富であることがわかっている。その多くが「手掘り」で採掘されており、アムネスティにより児童労働も問題視されている

 そういう調達や兵站の話を置き去りにして、「いいからやれ」とブラック企業のような進め方をすれば、なんのためのパリ協定かわからなくなるのだ。

 さらに経路充電に必須である「高速充電のビジネス化」がまだ雲を掴むような話であることも大きい。世界の誰も、まだ高速充電をビジネス化できていない。現存するすべてのサービスが公的資金か私企業の先行投資に依存して成り立っているのだ。

 永遠に続く補助金やフリーサービスはあり得ない。サステイナブルな事業として成立しない限り、経路充電が維持できない。ひいてはBEVが普及しない。

 大前提としてBEVは自宅での普通充電で運用されるため、高速充電器は年に数回の長距離移動でのみ必要になるだけだ。つまり利用頻度の低いサービスのわりにイニシャルの設備投資費用や、電力契約、保守などのランニングコストが高い。

 そして長距離移動は連休などのタイミングに集中するため、その需要集中に応えるために、数も求められる。ピーク需要は大きいにも関わらず、それ以外のアイドルタイムでの落ち込みが大きい事業は採算性が難しい。

 そして上に書いたとおり、BEVは自宅充電が大原則という点に鑑みれば、集合住宅や月極の駐車場を利用している人にはそもそも平時の運用が難しい。

 諸々の状態を考えれば、日本のBEVの普及は30%を超えることはなかなかないと思われる。

 対数を取れば、70%はハイブリッドを含むICE車両ということになる。「BEVに出遅れれば滅びる」という意見は相変わらず多いが、30%のBEVで10%のシェアを取っても3%。

 対するICEの10%は7%。別に日本がガラパゴスだからという話ではなく、よっぽど特殊な国でない限り、2035年までにBEVが過半になる国はない。全体としてみればおそらく30%前後なのではないか。

2035年の電気自動車(BEV)の普及はどの程度か。「新車販売で30%」というのが池田氏の予測。本誌もそれくらいだと思います
2035年の電気自動車(BEV)の普及はどの程度か。「新車販売で30%」というのが池田氏の予測。本誌もそれくらいだと思います

 もちろん30%がBEVになる世界でBEVにノータッチとなれば、メーカーはシェアを失うだろうが、それで失うシェアと今すぐICEから撤退することで失うシェアを比べれば、どちらが企業経営に打撃を与えるかは明らかであり、だからこそマルチソリューションだよねという話になる。

■既存エンジンの「バイオ燃料対応化費用」は数万円

 BEVはマルチソリューションの重要な一角ではあるが、すべての解決策になるわけではないのは、これまで述べてきたとおりである。

 しかし一方で、人類存続のために2050年にカーボンニュートラルは達成しなければならないとするならば、BEVのみならず、他の複数の選択肢を発展させるしかないことになる。それが合成燃料の話だ。

2023年10月のジャパンモビリティショーでレクサスが出品したLF-ZC。BEVはこうしたスーパースポーツには向いている
2023年10月のジャパンモビリティショーでレクサスが出品したLF-ZC。BEVはこうしたスーパースポーツには向いている

 はじめに断っておくが、合成燃料の話はまだ可能性の話であり、BEV同様技術的進歩や課題解決なしに実現しえない。将来のポテンシャルの話であり、今すぐできることではない。さらにいえばそのうえで、たとえばバイオエタノール(に限らないけど)は大量消費される場面で新たな問題が出ないとも限らない。

 それでも可能性のひとつとして注目したいのは、ブラジルの事例である。ブラジルではすでにバイオエタノールが普及しており。バイオエタノール100%の燃料が、ガソリンに対する価格競争力を備えている。

 また、ブラジルで販売されるすべての新車は、バイオエタノール対応が済んでおり、この対応に要する費用も新車生産時に1万〜2万円とわずか。さらに既存のガソリンと「ちゃんぽん」にしても走れる。

 ブラジルではこのバイオエタノールをさとうきびから生産しており、政府は生産余力を国内需要の6倍程度と言っている。つまりブラジルは産油国になったということである。ブラジルの例を見る限り、石油系燃料の代替燃料として唯一今すぐ使える選択肢に見える。ゲームチェンジャーに最も近い候補である。

 そもそもバイオエタノールとは要するにアルコールなので、酒が作れる原材料なら、麦でも米でもとうもろこしでも稷(きび)や粟でも甜菜(砂糖大根)でも可能であり、もっと言えば脱穀ゴミや林業の間伐材や枝打ち、製材のゴミ、道端の草刈りゴミでも、残飯、糞尿など、要するに「発酵するもの」ならなんでも原材料になる。

 国内でもさまざまな取り組みが行われてきたが、これまでの取り組みはコスト面で断念されてきた。しかし本当に2050年カーボンニュートラルを目指すのならばブラジルを手本に実用化を目指すしかない。

 上手く行けば、長らく手詰まりだった農業振興にもつながる可能性がある。食用ではないので見た目は問わない。とすれば従来のような労働集約的農業ではなく、企業による大規模な機械化農業に向いているかもしれない。

 そもそも「2035年までにICEの禁止」という話は、車両の寿命を考えると、2050年にカーボンニュートラルを達成するには、その15年前にはCO2を排出する車両の生産をやめなければならないという計算に基づいている。

 しかし、合成燃料によるカーボンニュートラル化を取り入れるのであれば、保有車両も含めて脱炭素が可能になり、これまでの2035年の縛りがなくなる。

 車検の際にレトロフィットで合成燃料対応改造を施していけば、ガソリンへの合成燃料の混合率を徐々に高めていき、最終的に2050年までに100%にすればいいことになる。それに見合うバイオエタノールやe-FUELの生産が間に合うかどうかだが、緊急事態となれば原材料でも燃料の形でも輸入すればいい、ということもできる。手段はありそうだ。

次ページは : ■当面のBEVの役割は二極化

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

新型プレリュード仮想カタログほか、スポーツカー好き大歓喜情報満載!ベストカー12月10日号発売中!!

新型プレリュード仮想カタログほか、スポーツカー好き大歓喜情報満載!ベストカー12月10日号発売中!!

 ベストカーWebをご覧の皆さま、ちわっす! 愛車がどれだけ部品を交換してもグズり続けて悲しみの編集…