今の日本では、国産車だけで200車種近い乗用車が販売されている。
そうなると販売格差も拡大する。ホンダN-BOX、スズキスペーシア、ダイハツタント、トヨタプリウスなど、1か月に1万台以上売れる車種が8車ほどあるいっぽうで、 1カ月の売れ行きが100台を下まわる車種も見られる。
これらの不人気車の売れ行きは、人気車の1%以下だ。
なぜ売れないクルマを造り続けるのか。その背景には複数の理由がある。クルマの販売について詳しい渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、MITSUBISHI
売れないクルマを作り続けるのには理由がある
まず「売れないから造り続ける」現実がある。車両を開発する時には、過去の販売実績や車種の性格を考慮して、生産総数(生涯生産台数)を決めるからだ。
例えば生産終了までの台数が、1か月平均で1万台だとすれば、6年間生産すると総数は72万台だ。この台数の販売を通じて、開発費用、金型費用、営業費用などを償却していく。
そうなると同じ費用を使って開発されても、生産計画台数が異なれば、車両価格を変えねばならない。72万台から半分の36万台に減れば、1台当たりが負担する開発費用は、単純にいえば2倍になる。そうなると必然的に価格も高まる。
例えばトヨタセンチュリーの価格は、先代型は1253万8286円だったが、現行型は1960万円に値上げされた。現行型はV型8気筒、5Lハイブリッドを搭載するが、ハイブリッドシステムやプラットフォームは、先代レクサスLS600hLと共通だ。しかも先代LS600hLの4WDシステムは、現行センチュリーでは省かれた。
いっぽう、先代センチュリーは、専用開発されたV型12気筒、5Lエンジンを搭載して、プラットフォームも独自設計であった。高コストなクルマだったから、商品を見る限り、現行型が700万円以上も値上げする理由は見当たらない。
そこで開発者に尋ねると「先代型の販売目標は、1カ月あたり200台だったが、現行型は50台と少ない。そこで価格を高めた」と述べた。生産台数の少ないクルマは、価格を高めないと収支が合わないわけだ。
そうなると売れ行きが予想外に悪く、計画台数に達しないのに、生産と販売を終えたらどうなるか。開発費用などを償却できず単純にいえば赤字になってしまう。パジェロのように、国内販売を終えながら海外で売り続けるなら話は別だが、そうでなければ一定の台数に達するまで生産と販売を続けねばならない。
売れないからこそ、収支が合うまで長く造り続けるのだ。開発時点でその後の売れ行きを見誤ると、大変なことになってしまう。
また市場性を考えると、新型車の開発に踏み切れず、細々と造り続ける場合もある。
例えばエスティマは、発売から13年を経過した。本来ならフルモデルチェンジしていい時期だが、アルファード&ヴェルファイアを一新したこともあり、新型エスティマの開発に踏み切れない。
ただしエスティマは1カ月に700台程度は安定的に売れるから、終了するのも惜しい。そこで長々と生産を続けている。
海外の事情も絡む。海外で相応に売れていれば、日本の販売台数が少なくても商品として成り立つ。大柄になった今のセダンは、大半が海外向けだ。
月販台数が500台以下のセダンも多く、国内市場だけでは絶対に成り立たない。いい換えれば今のセダンは海外が支えており、日本はオマケの市場になった。
そこで月販台数が2ケタの車種について、細々と生産を続ける理由を考えてみたい。
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