2021年9月17日、菅義偉首相の後継を選ぶ自民党総裁選が告示され、河野太郎規制改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4氏が立候補した。
はたして、菅首相が表明したエネルギー戦略を新しい総裁(首相)がどのように進展させるのか?
そんななか、2021年9月9日、豊田章男自工会会長はオンライン記者会見で以下のような声明を発表した。
『これから総裁選も始まります。一部の政治家からは、「すべてを電気自動車にすれば良いんだ」とか、「製造業は時代遅れだ」という声を聞くこともありますが、私は、それは違うと思います。今の延長線上に未来はないと切り捨てることは簡単です。でも、日本の人々の仕事と命を守るためには、先人たち、そして、今を生きている私たちの努力を未来につなげること、「これまでの延長線上に未来を持ってくる努力」も必要だと思っております。それが、日本を支え続けてきた基幹産業としての私たちの役割であり、責任です』(日本自動車工業会、原文儘引用)。
この豊田章男自工会会長の「一部の政治家が主張する、全部EVにすればよいというのは無理」という声明の真意はいかなるものか?
9月20日の段階で、まだ誰が総裁(首相)になるのかわからないが、はたして豊田章男自工会会長の“渾身の声明”は総裁候補者たちに届くのか、モータージャーナリストの国沢光宏氏が解説する。
文:国沢光宏
写真:日本自動車工業会、Adobe Stock
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■首相が交代すると日本のエネルギー戦略はどう変わるのか?
次期首相選びが佳境を迎えている。そんなタイミングで豊田章男自工会会長は「一部の政治家からすべてを電気自動車にすればよいとか、製造業は時代遅れだという声を聞くこともあるが、それは違うと思う」という、かなり踏み込んだ発言をした。バックグラウンドを少し掘り込んでみたい。自工会会長の主張を理解できると思う。
自動車産業だけでなく、すべての輸出産業にとって重要になるのが我が国のエネルギー戦略だ。
一応の最終目的地は我が国も宣言した世界的な流れとなっている2050年のカーボンフリーながら、その前にいくつかのチェックポイントを迎える。例えば大きな課題になりそうなのが8年後の2030年から始まる可能性大きい欧州の二酸化炭素削減規制。
この規制をクリアできない企業の工場で生産された製品は、EUに輸入できなくなるかもしれない。
つまり日本からEUに輸出されているクルマを作り、運送するために排出される二酸化炭素排出量がEUの基準を超えていたら輸入禁止になってしまうのだった。一方、我が国に於ける現在の電力は、75%が火力発電となる。絶望的な数字だ。
そこで日本は二酸化炭素排出量を2030年に2013年比で46%減らす目標を立てた。達成するため経産省や環境省は「電気自動車に切り換えればよい」という短絡的な考え方をしているようなのだ。
考えてほしい。電気自動車は電気で走る。その電気を作るのに二酸化炭素を出していたらいかんともしがたい。生産時に出す二酸化他炭素削減も必要。
いずれにしろ2030年までに抜本的なエネルギー戦略を立ち上げ、すぐに実行しなければ間に合わないということ。次期首相がそのあたりの認識を持っているだろうか?
ということを危惧した自工会会長は文頭のような発言をしたんだと思う。最悪、クルマに限らず日本からEUに輸出できる主要産業の製品はなくなるかもしれない。
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