コロナ禍のなか、日本ではようやくクルマイベントも徐々にではあるが再開されつつある。そんななか、元VWグループジャパン在籍していた、自称日本一の空冷VWマニアのジャーナリスト、池畑浩氏が、2年ぶりのバーチャル開催となったSEMAショーと、空冷VW文化の本場、LAで開催された空冷ビートルのドラッグレースを取材するために渡米!
はたして、どんな空冷VWを見ることができたのか、空冷VWパラダイスへようこそ!
文、写真/池畑浩
■空冷VWを見に、いざ本場アメリカへ!
長引くコロナ禍から世界中の国々が、徐々にではありますが、日常を取り戻しつつあります。日本でもクルマ関連のイベントが再開されはじめたことは、クルマ好きにとって朗報ですね。そんななか、毎年、ラスベガスで開催される世界の3大カスタムカーショーのひとつと言われる(日本:東京オートサロン、ドイツ:エッセンショー)「SEMAショー」に行く機会を得ました。
そこで早速、ロサンゼルスを拠点に全米展開する空冷VWの老舗専門誌「HOT VWs」渡辺編集長に連絡すると、ちょうど「SEMAショー」が行われる直前の日曜日に、ロサンゼルス郊外で、空冷VWのドラッグレース「HOT VWs Drag Rase」の最終戦があるとの情報を得ました。それを聞いた途端、長年の夢だった「本場、西海岸の空冷VWシーンを見てみたい」という思いが沸き上がり、スケジュールを前倒しにして、アメリカに向かったのです。
今回は、その羨ましいほどのリアル・アメリカン空冷VWライフについて、写真とともにお届けしたいと思います。
■アメリカが育んだ空冷VWカルチャー
1960年代に入り、「大きいことはいいことだ」と言わんばかりにアメリカ車が肥大化していくなか、VW O A(Volkswagen of America)は、「倹約」と「シンプル・ライフ」というアンチテーゼで多くのアメリカ人の知性と感性を刺激して、その価値観を根付かせることに成功しました。
1949年から始まったアメリカでの空冷VWの販売台数は、最盛期には年間約50万台近くに達しています。つまり、ファーストユーザーに加え、セカンドユーザー、サードユーザーまでを含めると、実に数百万人にも及ぶアメリカ人が、空冷VWによるモビリティの自由を享受したことになります。
こうした長年にわたるアメリカでの空冷VWカルチャーの創造主は、その魅力に取り憑かれ、レースやカスタマイズに没頭する人たち、そして、自由を追い求めるヒッピーをはじめとする多くのヤングスターたちでした。
つまり、空冷VWのカルチャーは、人種、性別、世代、思想、志向、そしてなによりも、アメリカの多様性を大きな原動力として、それぞれの時代で大きな花を咲かせていくのです。それら偉大なる空冷VWカルチャーのひとつが、西海岸はカリフォルニアで広まったキャルルックで、1970年代後半には日本にも最先端のホットウェーブとして押し寄せてきたのです。
■本場の空冷VWドラッグレースに興奮
10月31日(日)、ロサンゼルス郊外の「アーウィンデール ドラッグ ストリップ」というドラッグレース専用コースで行われた「HOT VWs Drag Day」を見に行ってきた。
すでに当日の主役であるドラッグスター達の爆音が響き渡り、数百台もの空冷VWが集合していました。前段の「HOT VWs」の渡辺編集長によると、「ロサンゼルス近郊には、こうしたドラッグレース専用コースが3ヵ所もある」というのだから羨ましい限りです。
ちなみに、「HOT VWs」は、長年に亘ってこのシリーズ戦をサポートしているそうで、運営は、空冷VWイベント界の名門中の名門である「BUG IN」事務局が取り仕切っていました。日本でも、この本場の空冷VWイベント「BUG IN」の興奮を再現しようと立ち上がった有志らにより、1981年から1985年までの計5回、三重県の鈴鹿サーキットで「BUG IN Japan」が開催されています。
当日はドラッグレースのシリーズ最終戦ということで、入念にチューニングされた約50台のドラッグスターが爆音を轟かせながら1/8マイル(約200メートル)の走行タイムを競っていました。フルチューンした水平対向4気筒エンジンが爆音をあげると、リアタイヤが白煙を上げ、フロントをリフトアップさせながらロケットのようにぶっ飛んでいきます。
最速マシンで5秒台と、可愛らしいビートルの姿からは想像できないその大迫力は、まさに感動ものです。ちなみに、このレースではありませんが、過去には名門の空冷ドラッグレースで日本人が全米チャンピオンに輝いた実績もあります。
オイルの焼ける匂いとバーンナウト(タイヤを空転させてグリップ力を高める作業)で焼けたゴムの匂いが漂うドラッグコースの横では、眩しい太陽が降り注ぐ大きな青い空の下、レースに参加しない空冷VWオーナーたちによるカーショーが行われていました。
そこではまさにアメリカの多様性を反映したような、多種多彩な空冷VWが所狭しと並び、コロナ禍で会えなかった旧友たちが共に再会を喜びあい、始終、和やかに愛車自慢を繰り広げていました。
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