現代のクルマには、慣らし運転は必要ないとよく言われるが、本当なのだろうか?
特にモーターとエンジンの両方を使うハイブリッドやモーターのみを使うEVには、慣らし運転は必要がないようにも思える。
それとも、新車を購入したらどのクルマでも、慣らし運転を必ずしなければいけないのだろうか?
40代以上のクルマ好きなら、「新車購入後1000kmまでは4000回転以上回してはいけない」などと聞いたことがあるはず。
そこで本企画では、慣らし運転は必要なのか、不必要なのか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカーweb編集部 Adobe Stock(トビラ写真:miya227@Adobe Stock)
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エンジンオイル交換は新車購入後1000kmが正解?
クルマ好きの間で長い間論争にもなってきた慣らし運転だが、どんな方法が正解なのだろうか?
現代のクルマのエンジン部品の工作精度はとてつもなく高く、さらにフリクション低減のための表面処理などが摩擦が厳しい部分には施されていることも珍しくない。そのため初期のなじみに必要な運転は、ほとんど必要ないのである。
それでも摩擦がゼロではない以上、最初は慴動面(こすれながら滑り合う部分)にアタリがつくまで摩耗して金属粉が発生する。
特に鉄粉は硬く、鋼材やそのほかの金属部品の慴動面に挟まるとその部分の摩耗を進めてしまうことになる。だから新車から走行1000km程度でエンジンオイルを交換する必要があるのだ。
そのオイル交換まではゆっくり走ることで金属粉の発生を穏やかにして、できるだけ発生する粒子を小さくすることで摩耗を最小限にしながら当たり面を仕上げられる。
そうするとその後の摩耗を抑えて、機械の良い状態を長く続けることにつながるのだ。これが慣らし運転で得られる効果だ。
これはエンジンだけでなく、変速機など駆動系にも通じるもので、理想を言えば駆動系のオイルも1000km程度で1回交換した方が機械のためにはいい。
しかし、オイル交換には異物混入やオイル量の変化というリスクも伴うので、近年はオイル無交換という変速機(特にATやCVT)も多い。
それくらい厳格に管理されているもので、オイル管理のためにフィルターも組み込まれているから、10万kmくらいまでは無交換でも壊れることはほとんどないように作られている。
だが、壊れるまではいかなくても、オイルの劣化がもたらす粘度の増減や汚れによって、潤滑能力や変速の制御のスムーズさは確実に低下していく。
ここがATF交換の是非について意見が分かれるところであり、壊れるリスクを考えたら無交換のまま使い続けて、調子が悪くなったらクルマごと買い替えてもらいたいのが自動車メーカーの本音(エンジニア個人では意見は分かれる)なのだ。
事実、筆者は10万kmを超えてからATFフルードを交換し、電子制御ATのキメ細かい変速制御が復活したAT車を体験したことがある。
これは慣らし運転とは関係ないように思われるかもしれないが、複雑なAT内部も部品同士が使われ始める最初がオイルは汚れやすい。
最初の慣らし運転は丁寧にしたほうが汚れや金属粉の発生は穏やかになるから、その後の変速機の寿命にも影響するハズだ。
つまり、慣らし運転や小まめなオイル交換をしなくてもエンジンや変速機が壊れることはないが、機械としてコンディションの良い期間はそれだけ短くなり、燃費や走りのフィーリング(回転フィールの滑らかさや、加速時の力強さ)は確実に低下していくことになる。
しかもこれは従来のエンジン車、すなわちガソリンエンジンもディーゼルエンジン車は当然のごとく、ハイブリッド車やEVにも通じるものだ。
EVはモーターやバッテリーには慣らしは必要ないが、駆動系はエンジン車と変わらないし、後述するサスペンションなど駆動系以外にも慣らし運転がコンディションを左右する機構はある。
ターボ車は、ターボチャージャーの軸受け部の潤滑と冷却をエンジンオイルが引き受けている(冷却水を用いる水冷を併用しているタービンも多い)ので、オイルに対する要求はNAエンジンより厳しい。
ダウンサイジングターボならタービンも小型で、慣らし運転中はタービンもそれほど仕事をしていないから影響は少ないが、オイルが汚れやすい新車時は、最初のオイル交換まではあまりブーストをかけないような走りを心がけたほうがいいだろう。
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