FJクルーザー、SAI、ウィッシュ、アイシスと、立て続けに生産終了し、またこの4月にはアベンシスも絶版としたトヨタ。ラインアップが多ければ当然生産終了車も多くなるのだが、それにしてもなんというか、諦めがよすぎないか。
本稿ではここ数年生産終了したトヨタ車のなかで、特に印象的だったモデルを挙げていただき、「もうちょっとなんとかなったんじゃないか」、「やりようを変えればもっと売れたんじゃないか」、「いやいやこれはさすがに潮時であった、引き際あっぱれ」というモデルを渡部陽一郎氏に選んでいただいた。
どれもいいクルマではあったんだけどなー。もうちょっと売れてればなー……というクルマたちです(本稿メイン写真は2003年登場の2代目アベンシス)。
文:渡辺陽一郎
■アベンシス 1997〜2018年
アベンシスはトヨタのミドルサイズカーだが、イギリスで製造される輸入車だった。輸入は2代目から開始され、2018年4月に終了したタイプは3代目になる。2代目はセダンも用意したが、3代目はワゴンのみとなった。
欧州向けのトヨタ車だから実用性が高い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)はプレミオ&アリオンと同じ2700mmで、前後席の間隔は936mmに達する。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半だから、クラウンなどのLサイズセダンと同等だった。また全長が4820mm(後期型)のボディによって荷室も広い。
エンジンは直列4気筒2リッターの直噴式で、パワフルとはいえないが、性能は実用的には十分だ。欧州向けだから走行安定性の不満もない。
全般的に機能は高いが、売れ行きは伸び悩んだ。理由は選択の決め手に欠けることで、特にレヴォーグと比べた時、アベンシスの勝る機能がほとんどないのは辛かった。
アベンシスの後席が広いといっても、レヴォーグでも頭上と足元の空間は同程度だ。動力性能はレヴォーグの1.6Lターボがパワフルで、走行安定性と乗り心地も優れている。緊急自動ブレーキを作動できる安全装備は、アベンシスでは歩行者を検知できない赤外線レーザーと単眼カメラを使うトヨタセーフティセンスCだが、レヴォーグには2014年の発売時点からアイサイトバージョン3が装着された。
またレヴォーグの登場以前に遡っても、アベンシスは先代レガシィツーリングワゴンに比べて魅力が乏しかった。特に安全装備では、レガシィが早期からアイサイトを採用しており、アベンシスは差を付けられていた。
要はアベンシスは、販売戦略上の面では間に合わせの商品だった。カルディナやマークXジオ(後者は3列シートだがワゴン風のボディで不人気だった)を廃止した後のトヨタは、ワゴンが乏しく、カローラフィールダーだけでは品ぞろえが足りない。そこでアベンシスのワゴンのみを輸入した。
しかも価格は高めで、ベーシックなXiでも270万円を超えた。250万円以下なら割安なワゴンになったが、それでも売れ行きを伸ばすのは難しかっただろう。ミニバンの人気が高い日本でワゴンを売るには、スバルのレガシィツーリングワゴン/レヴォーグに機能面で勝るクルマにする必要があったからだ。
■iQ 2008〜2016年
近年に登場した日本車の中で、際立って個性的だったのがiQだ。独特のコンパクトな駆動システムを使い、直列3気筒1Lと4気筒1.3Lエンジンを搭載しながら、全長を3m弱に抑えた。ホイールベースも2mと短く、最小回転半径は3.9mに収まる。しかも小さな後席を装着するから乗車定員は4名だ。後席は荷物の収納場所としても使いやすかった。
全幅は1680mmだが、全長は軽自動車よりも短く、小回りも利くから実用性の優れたマイクロカーとなっている。
ただし欧州向けの商品で、日本国内の売れ行きは伸び悩んだ。一番の原因は、日本には軽自動車が数多く存在することだ。軽自動車はiQに比べて全長が400mm長いが、それ以上に実用性が高い。アルトやミライースでも大人4名が快適に乗車できる室内空間が備わり、全高が1700mmを超える車種になると、後席を畳めば自転車なども積みやすい。4人乗りのミニバンといった印象で、軽自動車なのにファミリーカーとして便利に使える。
これらの軽自動車に比べてiQは実用性が不満だ。3ドアボディでもあるから、実質的にクーペになって家族では使いにくい。全幅はiQが200mm以上広く、小回り性能は良くても、狭い裏道などでは軽自動車が使いやすい場面も多かった。
そしてiQの価格は1Lエンジンの100Xが140万円、1.3Lの130Gは168万円に達したから、同等のエンジンを搭載するヴィッツと同程度か、それ以上に高い。軽自動車の先代ホンダN-BOX/G・Lパッケージは、格段に広い室内と多彩なシートアレンジを備えて134万円だったから、多くのユーザーがN-BOXに魅力を感じた。
iQには、軽自動車とは違う個性的な外観、小型車の中でも特に座り心地の快適なフロントシート、ドライバーを中心に車両が旋回するような独特の運転感覚などがあったが、販売面では成功しなかった。日本で最も優秀なカテゴリーとされる軽自動車と競ってしまうことが、iQにとって最大の不幸であった。
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