■回転対座シートが消えていったのは残念
時を経て競争が激化するとともに、ミニバンのシートアレンジも進化を遂げてきた。たとえば、2列目の快適性と利便性、3列目の収納性という3つのテーマを考えれば、2000~2010年代における日本車ならではの工夫と進化は目を見張るものだ。
とりわけミドルクラスの2列目シートのスペックは多種多彩さを極め、たとえば2列目に700mmを超えるロングスライドを与え、キャプテン2座あるいはベンチシート+1座を基本に6人あるいは7人乗りのバリエーションを拡大してきた。
ただし、限られた横幅の中で室内に余裕を生み出すには5ナンバーサイズでは足りないことは、新型ノア&ヴォクシーが3ナンバーボディを採用したことでもわかる。2列目シートの前後方向、すなわち座面長(と足元スペース)でも空間が限られてしまい、座り心地などに直接的に影響してしまうからだ。
簡潔にまとめれば、シートアレンジのポイントはおよそ以下のように集約できる。
1列目:助手席回転機能、センターコンソールの移動
2列目:(助手席側)スライド機構
2列目:キャプテンシート、回転対座機構
2列目:背面テーブル、オットマン
3列目:収納(後席&荷室の床下、左右方向跳ね上げ)
ただし、2列目シートにあまりに凝った機能をシートそのものに与えて構造が複雑になってしまうと重量増加を招いてしまい、燃費への影響が懸念されることになる。
2代目ライトエースや初代アルファード、2代目エルグランドなどに採用された2列目の回転対座機能などは後ろ向き着座時の安全性確保が難しくなるなど、次第に廃れていったことをみても、克服すべき技術的な課題が多くなりすぎてしまう。
であれば、ミニバンユーザーにとっては、オットマンなどのほうが快適性において上回るという結果となる。
日本のミニバンにおいて、シートアレンジの工夫が行き着くところまで達したといえるのは、2001年登場の2代目ステップワゴンではないだろうか。
1列目シート両席を回転させ、2列目シートバックを折りたたんでテーブルにすることで、レストランのような家族で食事が楽しめる空間となるレストランモード、2列目シートを、バタフライ式に座面と背もたれを逆転させてシートピローを付け替えることで、3列目シートとの対座を実現。
楽しく会話ができるリビングルームのような空間となる対座モード、1列目から3列目までのすべてのシートにフラット機構を設け、全シート長約3mのフルフラットを実現。
そして親子4人がゆったりと寝られるベッドルームになる3列フルフラットモード。最後は2列目シートをチップアップ収納し、3列目シートを左右跳ね上げ収納すれば、最大で荷室長1737mmのカーゴスペースを実現するカーゴモードという4つのシートアレンジが可能だった。
■これぞ日本ならではのアイデア!「マツダのカラクリシート」
これぞ、日本車メーカーの真骨頂といえるのがプレマシーやMPVに採用されたカラクリシートだ。
2005(~2010年)に登場した2代目プレマシーに採用された、「6+One」コンセプトを元に、3代目プレマシーに採用されたのが左右独立の2列目シートから簡易シートが現れるカラクリ7thシート。
これは助手席側の2列目シートの座面下からカラクリシート用の座面を取り出し、センターアームを背もたれとして使用するもの。
3代目プレマシーでは先代と比較して背もたれを下方向に50mm延長するとともに座面のクッションを15mmアップ、クッション前部を50mm厚くした。
普段はウォークスルーが可能なキャプテンシートの6人乗り、もう1名乗せたい時に、2列目が2人乗りのキャプテンシートから3人乗りのベンチシートになるという画期的なものだった。観光バスの非常用シートに発想は近いかもしれない。
マツダのミニバンが消滅してから、このカラクリシートのアイデアは他メーカーのミニバンには採用されていない。いいアイデアだと思うので、ぜひコンパクトミニバンに採用してほしいものだ。
このカラクリシートは、ラージサイズミニバンのMPV(1988~2016年)にも採用された。2006年の3代目の2列目シートは2代目から続く「カラクリシート」を採用。アームレスト付きのキャプテンシートでありながら、横方向にスライドすることが可能。
アームレストを格納して横移動させることで隙間なく設置することで、2列目の3人乗車を可能としていた。可倒式の3列目シートも背もたれにストラップが付属され、これを引っ張るとロックが外れ、ワンタッチで背もたれが前方に倒れ込む仕組みとなっていた。
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