「売りたいのに売れない」 新車の納期超長期化で困惑する販売店のリアル

溜まりゆく受注残、様子伺いだけで1日が終わることも

 営業スタッフ一人当たりの受注残(顧客から注文を受けて、登録・納車を待っている状態の注文数)が、減っていかない問題はさらに深刻だ。

 通常でも少なからず10台程度の受注残を抱えながら営業活動するのが、ディーラーの営業マンだが、新車納期が長期化する今、その受注残は倍から3倍程度に増えているという。

 受注残があるときには、必ず管理業務が営業マンにつきまとう。生産タイミングをみながら、顧客に書類や入金のお願いをしたり、注文後に変化がないか、様子を伺ったりするのだ。注文から納車までが3カ月以上になる場合には、1カ月に最低一度は電話やメールでコンタクトを取り、顧客の心が離れないようにしなければならない。

 メーカーから生産タイミングが発表されるのは、生産完了時期の2~3週間前だ。これを「振り当てがつく」と言う。車台番号が発表され、登録・納車に向けて動き出せる時期が判明することを指す。

 振り当てがつくまでは、注文を入れてもメーカーからは何の音沙汰もない。営業マン一人一人が、それぞれの注文に対し、振り当てがつく時期を予想しながら、顧客へ定期的な連絡を入れ、顧客の気持ちを盛り上げていく。

 販売活動や点検の誘致よりも、最も気を使い、綿密なスケジューリングとコミュニケーション能力が必要となる、受注残の管理。筆者でも現役時代に体験したことがあるのは、最高20台程度の受注残だ。納期は長くても1年以内である。

 今は、30台程度の受注残を抱え、その納期は1年とも3年とも、はたまた4年以上とも言われる。減らない受注残に、営業マンの消耗は激しい。

納車しないと利益にならない! 苦境に立つ販売店経営

クルマの販売は、車台番号が付きナンバープレートを発行してはじめて利益となる。注文を受けただけでは利益につながらないため、販売店経営は非常に厳しい状況となっている(88studio@– stock.adobe.com)
クルマの販売は、車台番号が付きナンバープレートを発行してはじめて利益となる。注文を受けただけでは利益につながらないため、販売店経営は非常に厳しい状況となっている(88studio@– stock.adobe.com)

 販売店自身の体力も心配になってくる。

 自動車販売店が、クルマの販売を利益に転化できるタイミングは、「登録(ナンバープレートの発行)」のときだ。つまり、クルマの注文を受けただけでは一銭の利益にもならない。

 クルマは生産されて車台番号(フレームナンバー)がついてからでないと「登録」出来ない仕組みだ。つまり、納期が1年かかる新車の場合、注文を受けてから約1年後に、やっと販売したクルマの利益が確定し、売り上げとして計上できることになる。

 人口減少や需要の縮小などにより、自動車の新車販売市場は、年々縮小傾向だ。特に、日本国内ではこの傾向が顕著であり、販売店は新車利益に左右されない経営方法を模索しながら、ここ数年、改革に励んでいたのだ。

 そこへやってきたコロナショック。経営改革が道半ばで止まってしまった販売店も多いだろう。注文は普段と同様に入るが、それが販売店の利益につながらない。販売会社はある程度の体力を残してはいるが、ラインナップの半数以上が半年以上の長納期になる現状は、かなり厳しいといえるだろう。

 販売店が身を削りながら、耐え忍ぶ日々はまだまだ続く。体力がゼロになるまえに、救いの手を差し伸べてあげたい。

 私たちの生活もそうだが、新型コロナウイルスの世界的なまん延は、経済に多大な影響を及ぼしている。連日のニュースで取り上げられるのはメーカーをはじめとする大企業のことばかり。その下で部品供給を行うサプライヤーや、新車の到着を待つ販売店では、報道されないだけで、さらに厳しい情勢が続いているのだ。

 特にエンドユーザーとメーカーを繋ぐ販売店は、双方から板挟みの状態になり、経済情勢が厳しいのももちろんだが、非常にストレスフルな環境に置かれていることも忘れてはならない。

 苦しいときにこそ、手を取り合い助け合うことができるのが、日本の良いところだと筆者は思う。今、販売店が置かれている苦しい現状を、多くの人に知ってほしい。

【画像ギャラリー】ユーザーも販売店も待ち遠しい!! 納期が半年以上のクルマたち(20枚)画像ギャラリー

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