■ロータリーとSKYACTIV-Xの融合はあるか
SKYACTIV-Xの技術を応用してスーパーリーンバーンを実現できれば、燃費は大幅に向上するのではないか。かつて東京モーターショーで発表したRX-Visionに搭載していると言われたロータリーエンジン、SKYACTIV-Rは、詳細は明らかにされることはなかったが、直噴化は確実に狙っていただろう。
もしロータリーエンジンでもSPCCI(火花点火制御圧縮着火)が実現できれば、燃費は大幅に向上するのではないだろうか。当然、マツダのロータリーエンジン担当エンジニアは、様々な燃焼技術にトライしているはずで、当然ながらSPCCIにも挑戦しているだろう。
しかしMrエンジンことマツダのエンジン開発のトップであった人見光夫シニアフェローは、水素ロータリーの再開発に関しても「ロータリーエンジンは燃焼室が移動するので、熱を維持するのが難しい」と発言している。
SPCCIでは燃焼を安定させるには、非常に繊細な制御が必要だ。ロータリーエンジンではレシプロに比べて制御因子が少ないだけにかなり難しいだろうが、断熱や冷却によりサーマルマネージメントを緻密に行うことができれば、ロータリーの燃焼状態を緻密に制御できるのではないだろうか。
■直噴化によって水素ロータリー再登場の可能性も見えてきた
マツダはBMWと並んで90年代に水素エンジンを開発し、リース販売まで漕ぎ着けた数少ないメーカーだ。それも燃料の柔軟性に富んだロータリーエンジンを用い、ガソリンと水素を切り替えて使えるバイフューエルも実現した実績もある。
今回の発電専用ロータリーはアルミ合金性ハウジングを採用したことも大きなトピックだ。
ロータリーエンジンは構造上、スチール製のスリーブを鋳込むことは難しく(やってできないことはないだろうが、従来のロータリーエンジンは充分に軽量でコスト面から見送ってきた面もありそうだ)、鋳鉄製のハウジングを用いてきた。
しかし、モーター(シリーズHEVとなると駆動用と発電用の2つ必要になる)やバッテリーなどの重量物がかさむプラグイン・シリーズハイブリッドでは発電用エンジンも軽量化が求められる。
そこでハウジングをアルミ合金化し、内壁をプラズマ溶射コーティングすることで表面硬度と耐摩耗性を高めているようだ。そして水素を燃焼させるだけでなく前述のバイフューエルにすれば、水素ステーションを渡り歩くようなドライブからも解放される。
しかしそうなると、バッテリーと水素タンク、ガソリンタンクと、3種類ものエネルギー源を溜め込むことになる。
ガソリンタンクの容量は20~30L程度で充分かもしれないが、水素タンクはスペースを食うし、バッテリーだってBEVほどたくさん積まなくてもいいとはいえ、ある程度の容量は必要だ。それに何より複雑化することで、生産コストは跳ね上がってしまうことになる。
より小型のロータリーエンジンによる発電の可能性もありそうだが、高回転化は燃費を改善する方向には効果が薄い(車体の軽量化による燃費向上効果はあるが)ので、今回の802ccローターのまま、さらに燃焼の制御を緻密化していくことになるのではないだろうか。
直噴化によって水素ロータリーもより現実性が高まるが、さらにディーゼル化の可能性さえも見えてくる。かつてヤンマーでは開発していたが当時の技術レベルでは困難と断念したと言われており、直噴に加え低圧縮を実現したSKYACTIV-Dの技術を応用すれば、ディーゼルロータリーも実現可能ではないかと想像力が膨らんでくるのだ。
燃焼室が長いロータリーでは燃焼室の隅々まで燃やすとなると燃費が低下するのは避けられないが、噴いた燃料分だけを燃やせるディーゼルなら、火炎周辺の空気を熱エネルギー吸収による膨張させれば、熱損失を大きく改善して、燃費も向上できる。
問題はガソリンエンジンとは異なる特性をどう擦り合わせていくかだが、水素ロータリーを完成させたマツダであれば直噴ディーゼルロータリーも作り上げられるのではないか。そうなればバイオ燃料などを用いたクリーンで効率の高い発電専用ロータリーエンジンが誕生することになる。
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