ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はスズキ 2代目ハスラー(2020年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2020年5月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■「最も変わらないデザイン」を選んだスズキ
この連載で2代目のレンジローバーイヴォークに乗った時と同じことを感じている。大ヒットモデルの2代目はやはり難しいな、と。
新型ハスラーの話だ。ハスラーはSUV風クロスオーバーという軽自動車の新しいジャンルを作り出した偉大なクルマだ。楽しげな雰囲気が好きで、私も買って今も所有している。
しかし、今、目の前にある2代目。クルマ雑誌の編集者か評論家でもなければこれが新型とは気づかないだろう。新しいプラットフォームを使っているとか、ホイールベースが延びたとか説明されても、見た目が同じではあまり意味がない。
たぶん、計画の段階では別のデザイン案もあったはずだが、スズキは「最も変わらないデザイン」を選んでしまった。実車を前にしてもときめかないのも無理はない。うちにある初代ハスラーとほとんど同じなんだから。
守りに入る気持ちはわかる。軽自動車の新しいジャンル、いわば金鉱を掘り当てたのだから、それを手放したくないと思うのも無理はない。
しかし、自分のハスラーを2代目に買い替えるかというと、その可能性はほぼない。このデザインが好きでたまらない人は別だろうが、大枚をはたいて、今乗っているクルマとほとんど変わらない新型車を買う人はあまり居ないのではないだろうか。
BMWミニだってデザインを変えないで成功していると言われそうだが、ミニはほかにライバルがいない唯一無二のクルマだ。
ハスラーも初代はそうだったが、今は同じジャンルに後追いでやってきた競合車がいくつもある。もうすぐタフト(ダイハツ)も登場する。そのなかで初代が出た6年前と同じデザインで戦うのは厳しいのではないか。
ヒット車の2代目は偉大な役者の父を持つ2世タレントのようなもので、他人にはわからない苦労があるだろう。
また「軽自動車相手にそんなに難しいことを要求するな」と言われればそのとおりで、世の中には実車を見ないし、調べもしないでなじみの営業マンの言うとおりにクルマを買い替える人もたくさん居る。
こんなことにこだわっている私のほうがおかしいのかもしれない。
■軽自動車には未知の分野が残されている!
ひとつ思うのは、最近の軽自動車は「作り慣れている人が作っているな」と感じることが多いということだ。これ、あまりよくない傾向である。
実は、私には料理番組と子ども番組を作りたいという思いがあった。
料理番組のほうは『浅ヤン』(編註/浅草橋ヤング洋品店。テリーさんが演出していた超人気番組)で周兄弟や金萬福さんが登場した「中華戦争」がそのひとつだったかもしれないが、子ども番組は手掛けたことがない。
つまり、ふだんやったことのない仕事から面白いものが生まれるという意識があるのだ。
高級車でもスポーツカーでも、あるいは超高級ミニバンでもいい。
軽自動車を作ったことのない人が軽自動車の開発をすると、絶対に今までにない軽自動車が生まれるはず。そして、その成功率はかなり高いと思うのだ。
逆もありだ。例えばムーヴキャンバスを作った人がスカイラインを開発するとどうなるのか。私はそういうクルマを見てみたい。
ずっと軽自動車を作っていると、作り手が軽の常識を越えられなくなってしまう。今、日本の軽自動車はそんなクルマばかりになっていないだろうか。
軽自動車にはまだまだ可能性がある。乗り降りがラクで荷物がたくさん積める背の高い2シーターは若者にウケるかもしれないし、かつてのヨタハチ(トヨタスポーツ800)をSUV風にしたようなクルマだってあっていい。
ネクタイもベルトもしない、でも、ファッションにはこだわりのある若者たちが欲しがる軽自動車をぜひ生み出してほしい。そして、それができるのは女性かもしれないと思っている。
今回、変わり映えしない新型ハスラーに乗って、そんなことを考えた私である。
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