徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はトヨタのセリカ GT-FOURを取り上げます。
1985年フルモデルチェンジを果たし、直線的なそれから曲面的なボディへ、そしてFR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)へと大きなターニングポイントを迎えた4代目セリカ。その4代目に1986年10月追加されたフルタイム4WDモデルがこのGT-FOUR(ST165型)です。
4WDはデフロック機構を持つベベルギア式センターデフで、これはWRCを席巻したアウディクワトロと同じ。同じくWRCを戦うべく開発が進められるなか、激しいラリーステージを戦うには信頼性と耐久性が最も重要、という判断からでした(後にビスカスカップリングに変更)。
当時2L最強の185psを発生したエンジン3S-GTEは、長くトヨタのスポーツエンジンとして君臨することになります。
FRからFFへの大きな変革を遂げたセリカ、そしてスポーツカーのトレンドそのものを、徳さんはどのように見たか。1985年の試乗記をリバイバル。
※本稿は1985年に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2015年4月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■アウディ・クアトロとの類似点
セリカGT-FOURの4WDはごくごくオーソドックスだ。センターデフはオーソドックスなベベルギアを使い、パワースプリットは前後50対50だ。つまり、セリカGT-FOURはフルタイム4WDのロードカーとしては、元祖的なアウディ・クアトロとそっくりなのだ。センターデフはサイドブレーキの前、センターコンソール上にあるスイッチでロックができる。エンジン横置きのFFからフルタイム4WDを作るという点では、ファミリアGT-Xとも相通じるものがある。
新しい3S-GTEは従来の2L 4シリンダー、DOHC、4ヴァルブの3S-GE にインタークーラーターボを与えたものだ。
排気量1998cc、ボア×ストロークは86.0×86.0mmとスクエア、圧縮比は8.5だ。最高出力185馬力、最大トルク24.5kgmという数字はターボエンジンとしては、そう驚くものではないが、0~400m加速タイムはメーカー発表値で14.9秒というからすごい。
これは3L級の高級スポーツカーのものであり、4WDのトラクションの有利性がこの0~400mタイムにハッキリと表われている。
150~160馬力以上になるとFWDではトラクションが不充分だ。ならば4WDでそのパワーを吸収してやろうというのがアウディ・クアトロが生まれた理由だ。セリカGT-FOURが誕生したのもまったく同じ。FWDにならざるをえない時代で、第一線の動力性能を与えるためには、4WDは必須であった。
しかし、この4WD化のためにセリカGT-FOURは1350kgと大いに重くなった。リアサスペンションを強靱なサブフレーム構造にするなど、各部の剛性アップを行ったこともあるが、およそ200kgも重い。
■平和な加速フィール
セリカGT-FOURはとにかく速い。そしてその加速フィールは4WD独特のものだ。ハイパワーのFWDは派手にホイールスピンをともなってスタートする。こいつがドライバーの気分を高揚させる。しかし、4WDは違う。5500rpmあたりでクラッチをつなぐと、この瞬間からぐいぐいと車速を上げる。
前から引っ張るのでもなく後ろから押されるのでもない。とにかくクルマの姿勢もほんの少しノーズアップするだけである。外から見ると速いことは速いのだろうけれど平和に見えるだろう。
実はドライバーも2WDよりもずっと平和なのだ。メーカー発表値で0~400m加速14.9秒!! という空恐ろしい加速を持つクルマのわりには首にこない。例によってすこし腹にはこたえるが、ドライバーはあまりやることがない。とにかくスロットルを踏みつけるだけ。あっという間に160km/hを超えてしまう。
ものすごい加速は6000rpmを超え、6500rpmくらいまで有効である。エンジンはトルクフルでスムーズだが、3S-GEほどの快感はない。そのぶん、圧倒的にパワフルだ。
ターボの威力は箱根ターンパイクの登りで大いに発揮される。その加速感と到達するスピードはポルシェ911カレラよりもわずかに下回るというところだ。
コーナリングアビリティもよく仕上がっている。基本的には弱いアンダースティアでFWD的なハンドリングを持つが、フロントが際限なく外へ動くこともなく、さりとてリアがブレイクしてピンチを迎える可能性も少ない。
下りでのコーナリングの安定した姿勢は感心させられる。また直進安定性もさすが4WDだ。このクルマの高速道路での100km/hはさぞたいくつなものであろう。
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