トヨタセンチュリーvs.ロールスロイス 世界最高峰を水野和敏が斬る!!

■センチュリーは知識と理性で作られた高級車

さて目を横のセンチュリーに向けてみましょう。

センチュリーは日産がプレジデントをやめてしまった現在、日本で唯一のVIPカーと言われていますが、VIPカーとして必須の防御機能はおそらく皇室専用車だけでしょうし、襲撃から逃げるためのスーパースポーツの走りは、このスペックでは求められません。

残念ながら普通に販売するセンチュリーは世界基準で見たら、VIPカー要件は満たしていません。

むしろベンツSやBMW7のロングホイールベースリムジンと同じ「ハイラグジュアリー高級サルーン」に区分けされると思います。

しかしながら、日本文化の価値観のなかで法人向けに”ECOまでを演出した日本専用VIP車”という独自のイメージを創り出し、ある意味日本文化高級サルーン市場創造車ともいえるでしょう。

センチュリーは単体で見るとボリューム感のあるボディサイズですが、こうしてファントムと並ぶとずいぶんと小さく見えます。

先代はV12を搭載していたセンチュリーだが、新型からはV8ハイブリッドにスイッチ。いっぽうのロールスロイスはかつての名機V8からはとっくに脱却し、V12ターボを搭載

ファントムがあまりにも巨大なのです。特に今回の試乗車は「エクステンデッド・ホイールベース」と呼ばれるロングボディなので、ホイールベースは3770mm、全長は5990mmとなります。

それよりも存在感を醸し出しているのは1645mmという全高。ちょっとしたSUVにも迫る背の高さです。ファントムはすべてがとにかく大きいのです。

センチュリーのエクステリアを見ると、残念ながらほかの国産車と同じように「面での表現」ができていません。

キャラクターラインに頼ったデザインで、しっかりと面を活かした感性を感じる塊としてのフォルムを作り出せていません。しかしながら法人向けに「贅沢三昧には見えず、人から後ろ指は差されない」という意味では当たり障りのないデザインだと思います。

ファントムと並べてみるとハッキリとわかります。例えばドアパネル。サイドウィンドウ下にエッジラインが入っているのは両車共通しているのですが、ファントムは棚のような曲線ラインからエッジラインを経てドアサイドパネルに至る造形が、一連の流れを持った面として表現されています。

白いストライプが配されているにもかかわらず、まったく分断された間がないのは見事な造形技術です。

ニースの海岸、モナコのパレス、アルプスの別荘、スコットランドの庭園、どんな背景や車体色にも合うソリッド感のある塊です。

一番の違いはセンチュリーの「フォーマルユースだけ」というデザインと異なり「プライベートユースとフォーマルユースの両方に適応しているデザイン」なのです。

一方センチュリーは、ドアガラス下の棚面とドアサイドの面が積用キャラクターラインで分断され上下で別の面になっていて、ドアパネルはのっぺりした単純なプレス面に見えてしまっています。

さらにシルをカバーするステンレス製と思えるプレートがサイドの面を3つに分断してしまう要因となっています。

これに窓越しに白いレースのカーテンが加わっています。日本の昔からの高級車要素がすべて取り入れられていますが、現在では日本にしか通用しない価値観の典型だと思います。欧州文化で世界戦略車のファントムにはそのような組み合わせの装飾はありません。

レースのカーテンにシートカバー。センチュリーは日本専売車種だけに、トヨタはここにもかなりのこだわりを持っているようだ

大きなクルマで各部分のプレス面が大きくなればなるほど、面の曲面の描き出しを意識した車両デザインにし、一体の塊感(ソリッド感)で感性を演出したフォルムを造らなければ、単なる”プレス鉄板の組み合わせ感”が出てしまいます。

センチュリーは車両サイズが大きいにもかかわらず、法人向けに、感性を表に出さないデザインで曲面が弱く、平面主体になっているために、結果としてロールスロイスのようにシーンに合わせたさまざまな車体色が使えず、メタリック系でない、ソリッドな限定された少数の車体色しか設定されていません。

ファントムはヘッドランプからボンネットフードにかけて、さらにドアパネルに向けてスーっと滑らかにラインが連続しており、ドアパネルサイドの面の膨らみと一体化している。これが重厚感のあるソリッドな「かたち」を表現しているのです。

ただ一方、センチュリーの外観を作る職人技の仕上げは素晴らしいです。パネルの平滑性であるとか、塗装の仕上げであるとか、チリの合わせであるとか。

かなり手作業の領域があると思うのですが、職人さんの技術はとても高く、丁寧な仕上げをしていることがわかります。ハイライトを見ても一箇所も歪みなどはありません。

これは凄い「仕事」です。せっかくこれほどの精緻な仕上げをできる職人がいるのだからこそ、デザイナーはもっともっと面を意識したデザインに挑戦してもらいたいし、職人さんの技術を活かす面形状を、職人さんとディスカッションして作り上げていっていただきたいのです。

GT-Rを開発した際、ソリッド感演出のためのデザインのポイントはリアフェンダーにあったのですが、私はデザイナーの長谷川さんや工場のプレス屋さんと直接何度もディスカッションを繰り返して、のっぺり感がなくハイライトをしっかりと表現できる面を造るために幾度もプレス型修正を繰り返しました。

ファントムのリアセクションは大きく絞り込んだ形状をしています。個人的にはこのデザインは好きではないのですが、ただ、デザイナーの意図はわかります。リアフェンダーの面としての盛り上がりを強調したかった。これによって重厚感が醸し出されます。

センチュリーは知識と理性で作られた高級車。一方ファントムは感性の領域に強く踏み込んでいる。「品質」は理性ですが、「質感」は感性です。

理性で作られたセンチュリーは、いわばスタジオで撮ったフォーマルな撮影写真が似合うクルマ、一方感性を主体に盛り込んだファントムは芸術写真のイメージです。

次ページは : ■後席に乗るVIPのことを徹底的に考えたファントム

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

トヨタの韋駄天が覚醒する! 6代目NEWスターレットのSCOOP情報をはじめ、BC的らしく高級車を大解剖。さらに日産・ホンダの協業分析、そして日向坂46の富田鈴花さんがベストカーに登場! 新社会人もベテランビジネスマンまで、誰もが楽しめるベストカー5月10日号、好評発売中!