「SUVと呼ばないで」新型センチュリー発表時に異例の申し出をしたトヨタの思惑と理由

「SUVと呼ばないで」新型センチュリー発表時に異例の申し出をしたトヨタの思惑と理由

 2023年9月6日、都内で新型センチュリーの発表会が実施されました。詰めかけたプレス(記者)陣に対して、特にそれまで「センチュリーSUV発表間近」と伝えてきたメディアへ、「本日発表するモデルは、SUVではないんです」と、広報担当者が説明して回る場面がありました。ご存じのように新型センチュリーのフォルムは「SUV」そのものですが、これを「SUVと呼んでほしくない」と説明するトヨタの真意と理由は? 以下、当日の取材とその後の追加コメントで概要をお届けします。

文/ベストカーWeb編集部、写真/TOYOTA、奥隅圭之

■「成り立ちや目的そのものが違う」

「ベントレーのベンテイガやロールスロイスのカリナンなど、世界の高級車メーカーが高級SUVを発売しています。この新型センチュリーは、そうした市場にトヨタも参入する、ということでよろしいでしょうか?」

 新型センチュリー発表会場にて、トヨタ自動車の中嶋裕樹副社長(商品担当)は、あっというまにおおぜいの記者に囲まれて、いわゆる「ぶら下がり取材」を受けていた。上記はその取材中の一幕。

新型センチュリーのスライドドアバージョン。フロントグリルには「GRMN」のエンブレムも埋め込まれている。これは「もしモリゾウ(豊田章男会長)が新型センチュリーを思い通りの仕様に仕上げたら」という構想のもと作成。この仕様でも作れるそうです
新型センチュリーのスライドドアバージョン。フロントグリルには「GRMN」のエンブレムも埋め込まれている。これは「もしモリゾウ(豊田章男会長)が新型センチュリーを思い通りの仕様に仕上げたら」という構想のもと作成。この仕様でも作れるそうです

 記者から差し出された多くのレコーダーやスマホに、中嶋副社長はいつものように決然とした口調で、以下のように回答した。

「いえ、そうではありません、この新型センチュリーは”SUV”ではないので」

 SUVでは…ない…?

「このクルマを作るにあたり、わたくしどもトヨタは、さまざまな、それこそ世界中の高級車を研究してまいりました。そのなかにはもちろん、いま皆さんが仰った背の高い(ベンテイガやカリナンなど、いわゆるSUVタイプの高級)モデルも含まれております。ただ、ただですね、この新型センチュリーは、成り立ちや目的そのものが違うんです、まったく新しいものを作ろうと考えてきました」

後席の快適性を突き詰めた仕様。4座タイプで座面はかなりフラットになる。「乗り降りする際に、所作が美しく見えるよう工夫した」とのこと
後席の快適性を突き詰めた仕様。4座タイプで座面はかなりフラットになる。「乗り降りする際に、所作が美しく見えるよう工夫した」とのこと

 中嶋副社長によると、新型センチュリーが、いわゆる「セダンタイプ」のフォルムではなく、車高や最低地上高が高く、キャビンスペースに余裕を持たせたフォルムを採用したのは、「乗降性と車内快適性を追及した結果、このフォルムにたどりついたということであり、このフォルムありきでデザインされたわけではないのです」と語る。

「SUV」という呼称は、いうまでもなく「スポーツユーティリティビークル(Sport Utility Vehicle)」の略称であり、日本語に訳すなら「スポーツ用多目的車」となる。しかしこの新型センチュリーは「スポーツ用」ではなく、また「多目的」でもないから、そう名乗るのも呼ばれるのもおかしい…、というのがその理由だとのこと。

 たしかに新型センチュリーは(オフロードを走るために)悪路走破性が高いわけでもなく、(おおぜいでキャンプへ行くため)積載性が高いわけでもない。いっぽうで、後席からの視界を最優先しているため、前席インパネの操作系スイッチが(後席から見えないよう)低めに設置されているなど、従来のSUVとは異なる気遣いが各所に見られる。

カタログに用意されたボディカラーは6色。右手前の赤いボディカラーは「紅蓮(ぐれん)グローリーレッド」と名付けられている
カタログに用意されたボディカラーは6色。右手前の赤いボディカラーは「紅蓮(ぐれん)グローリーレッド」と名付けられている

 この「新型センチュリーは”SUV”ではない」という思想は開発現場でも徹底されていたようで、開発責任者であるトヨタ自動車の田中義和氏も、「開発メンバーのなかで、このクルマを開発中に”SUV”と呼ぶ者は誰もいませんでした」と明かす。

「このクルマの目的は、後席に乗車する方をもてなす、という一点です。だから多目的車というのは語弊がある。ただ時代の変化に合わせて、ショーファーカーのあり方も多様になってきました。乗車中ゆっくり休みたい、という方もいれば、乗車中でもオンライン会議に出たい、仕事がしたい、という方もいるでしょう。そうした多様な目的に合致するクルマでありたかった」と、これまた発表会場で記者へ向けて田中氏は語った。

 そういう意味ではたしかに既存の超高級SUV勢とは、設計の思想や哲学がそもそも違う、ということだろう。

後席を思いきり倒すとこういう姿勢もとれる。ライバルは新幹線のグランクラスか
後席を思いきり倒すとこういう姿勢もとれる。ライバルは新幹線のグランクラスか

「するとしかし…このSUVに見える新型センチュリーのカテゴリーは……なんと呼べばよいのでしょうか…?」と記者が重ねて質問すると、上述の中嶋副社長は、「うーん…、新型の…センチュリー…としか呼んでこなかったので…」と、特に新しいジャンル、新しいカテゴリーを作るつもりではなく(ここらへんもトヨタがセンチュリーを「唯一無二」と考えていることがわかる)、新名称も(トヨタ社内では)存在しないことも明らかにした。

 この新型センチュリーは、これまでセンチュリーがごく一部地域を除いて日本国内専売車だったのと対照的に、将来は海外市場での展開も予定しているという。そうなると必然的に、購買層、ターゲットユーザーは(超高級車を狙うセレブ層ということで)前述のベンテイガやカリナン、もっというとメルセデス・マイバッハ GLS 600 4MATIC、レンジローバー、さらにフェラーリプロサングエやランボルギーニウルスと重なるだろう。

 そうした際に「高額なSUVタイプ」として、この新型センチュリーはライバルたちと明確に区別化されるのだろうか(「SUVではない」という開発戦略は、ここで功を奏すかもしれない)。

荷室は340Lで、キャビンとの間に(一般的なSUVにはないが)しっかり隔壁があり、静粛性が確保されている。ここらへんも「SUVではない」というポイント
荷室は340Lで、キャビンとの間に(一般的なSUVにはないが)しっかり隔壁があり、静粛性が確保されている。ここらへんも「SUVではない」というポイント

 また、こうした開発の意図や経緯を聞くと、メディア側としても「なるほどたしかにセンチュリーSUVと呼ぶのは違うな…」という気もしてくるが(実際、発表日以降、当サイトも「センチュリーSUV」という呼称を封印した)、そのいっぽうで「じゃあなんて呼べばいいのか」という問題は残る。特にセダンタイプの「これまでのセンチュリー」が継続販売されるのだから、なおさらだ。

 ちなみに現在、トヨタの公式ホームページでは、車種がジャンルごとに分類されているが、センチュリーは「センチュリー」というカテゴリーに分けられており、さらにセダンタイプだけに、車名のあとに(セダンタイプ)と明記されている。

トヨタ自動車の公式サイト「ラインナップ」欄には「コンパクト」「ミニバン」「SUV」などと並んで「センチュリー」という項目が新設された
トヨタ自動車の公式サイト「ラインナップ」欄には「コンパクト」「ミニバン」「SUV」などと並んで「センチュリー」という項目が新設された

「読者やユーザー、SNSなど、世の中が自然発生的にこの新型センチュリーのカテゴリーの呼び方を決めるぶんには問題ないんですよね?」と重ねて質問したところ、「それはもちろんそのとおりです」と、こちらはトヨタ自動車広報部。将来的にこの新型センチュリーが、世界の高級車市場へ向けて「これが日本人の考える新しい超高級車像です」と打って出ることを考えると、なにか素敵な呼び名がつくとよいなと思います。いい感じの名称を思いついたらわたくしどもも提案いたします。はい。

【画像ギャラリー】新型センチュリー画像集「この新型のボディタイプ」を何と呼ぶか、みんなで決めましょう(23枚)画像ギャラリー

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