ホンダの魅力は、トヨタや日産にはない独創的なクルマ作りにある。最近では鳴りを潜めている感は否めない。
ホンダと言えば独自の発想で作られるエンジンが有名だが、ホンダらしさ全開のクルマをこれまでに数多く世に送り出してきた。
しかし、このホンダらしさ全開はいい方向ばかりに行くわけでなく、尖りすぎていたゆえに販売面で苦戦したクルマも少なくない。しかし、それはクルマの善し悪しだけではなく、発売するタイミングが悪かったり、ユーザーが置き去りになってしまったケースもある。
本企画では、販売面で苦戦はしたけど、ホンダらしさ全開の尖りすぎたモデルを集めてみる。
文:永田恵一/写真:HONDA
【画像ギャラリー】考えた人は天才!! ホンダS-MXの徹底した恋愛仕様キャッチコピーが凄すぎる!!
S-MX
販売期間:1996~2002年

S-MXは乗用タイプミニバンのオデッセイ、シティクロカンのCR-V、BOXタイプミニバンのステップワゴンに続くクリエイティブムーバーの第4弾として登場。
全長3950×全幅1695×全高1750mmのショート&トールの2列シートのハイトワゴンながら、そのコンセプトは『恋愛仕様』のデートカーというもので超絶に尖っていた。
フロントベンチシート、フルフラット、ワンステップフロア、リアのスライド式ベンチシートなど、現在人気のトヨタタンク/ルーミー、スズキソリオ以上に使い勝手は優れていた、といっていい。

しかしあまりにもホンダが『恋愛仕様』ということをアピールしたがために、イメージが固まってしまい、購入を見送った人も多かったという。
デビュー当初は若者を中心にかなりの受注を抱えたが、冷めるのも早かった。
約6年間販売されたが後継モデルは登場せず。ただ、恋愛仕様ではなく趣味性と使い勝手のよさを強調したハイトワゴンはモビリオスパイク→フリードスパイク→フリード+と受け継がれていることが救いか。

N-BOXスラッシュ
販売期間:2014~2020年

N-BOXスラッシュは2014年にN-BOXのルーフ部分を110mm低く仕立てた、いわゆるチョップドルーフ版で、クーペスタイルのルーフラインが美しい。
N-BOXスラッシュは実用一辺倒ではなく遊び心、オシャレ心を盛り込んでいるのが特徴で、デビュー時に趣向の違う8種類のインテリアを用意するほどの力の入れようだった。
中でも赤を基調にチェッカー柄をあしらったダイナースタイルは、メーカー純正で登場したインテリアとしては奇抜でほかにない独創性が感じられた。

王道のN-BOXに対しキワモノ的に見られがちだが、絶品のサウンドマッピングシステムや軽自動車らしかぬ高級感に代表されるこだわりなど、ホンダは徹底していた。
販売面では失敗したかもしれないが、最近薄れつつある何か面白いことをやってくれそう、というホンダらしさが最も感じられる1台だったのかも。そんなN-BOXスラッシュが絶版になったのは寂しい。

Z(2代目)
販売期間:1998~2002年

1998年にホンダが登場させたブランニュー軽自動車は、1974年に絶版となったZの名を冠してホンダZ復活と話題になった。
デザインをオマージュしているわけではないが、UM-4(アンダーフロア・ミドシップ・4WD)という斬新な技術を盛り込んでいる点では初代同様に軽スペシャルティと呼べるものだった。
ホンダZの最大の売りは、パワートレーンをフロア下に配置したことにより広々とした室内スペースを確保していたことで、実際に小型車並みの2380mmの室内長を実現。
またUM-4にはフロントにエンジンがないことによる衝突安全性の高さというメリットもあり、ホンダらしさ全開の非常に尖った軽自動車だった。
しかし、ユーザーにとってはネガのほうが目立ってしまった。
まず、3ドアしかラインナップしていなかった。コンパクトカーも3ドアが消えたのはリアシートへの乗降性が悪いからで、ユーザーからも不評だった。

UM-4という凝ったメカニズムのために車重が970kgと1t近くあり、52psのNAエンジンでは非力すぎた。
64psのターボならキビキビと走れたが、約130万円と高額だった。今では130万円の軽自動車は当たり前だが、当時は1.5Lクラスのクルマが購入できたため敬遠されたため、わずか3年3カ月という短命に終わってしまった。
UM-4は元々アクティのシステムを流用したこともあり、バモスにも搭載され2019年まで生産されていた。

S2000
販売期間:1999~2005年

ホンダの50周年記念車として登場したのがS2000で、ホンダの『S』が29年ぶりに復活となった。
車名の2000が示すとおり、エンジンは専用開発された2L、直4DOHC+VTECのF20Cで、NAながら250ps/22.2kgmで、圧巻は250psを8300rpmでマークする超高回転型エンジンだったことで、レッドゾーンの9000rpmという珠玉のユニットだった。
後期モデルは2.2Lに排気量アップされ、扱いやすさを手に入れた半面突き抜けた感じは失われたが、時代の流れからは正常進化と言っていいだろう
ステアリングもクイックで、スパルタンを絵にかいたようなクルマで、日本車では有数の尖ったクルマで、目立たないながらも細かく手を入れて改良されていた。
軽自動車のS660は登場したが、S2000は単発で終わり後継モデルは登場していない。

販売面で苦戦したのはホンダが悪いわけでも、クルマがダメだったわけでもない。
S2000は発売当初は納車数年待ちというバックオーダーを抱えながら、信じられないほど早くその人気は収束してしまったが、これもスポーツカーの常だ。
日本の自動車産業は、大量生産大量消費の上に成り立っているがゆえに、スポーツカーにとっては生きづらい。
S2000の復活待望論は常にあるが、ホンダが少量生産でペイできる体制を作らない限り復活するのは難しいのかも。でも復活に期待したい。

インサイト(初代)
販売期間:1999~2006年

初代インサイトもホンダらしさ全開の尖った1台で、ホンダの持つハイブリッド技術を使い、本気で市販車での燃費世界一を目指したクルマだ。実際にインサイトは当時世界最高となる35.0km/Lという10.15モード燃費を達成している。
その燃費を向上させるために徹底ぶりは、レーシングマシンさながらで軽量化とエアロダイナミクスを追求。
具体的には、アルミボディ+樹脂フェンダー、2シーター化による軽量化、ナロータイヤ、スパッツなどの装着によりCd値=0.25(ホンダ計測)というエアロボディなど枚挙に暇がない。
2シーターということからもわかるとおり、実用性は度外視してでも燃費世界一を勝ち取るという気概にあふれていて、この点が非常にホンダらしく、妥協はなし。

そんなこともあって、ホンダとしても初代インサイトが売れないのは百も承知。でも市販車として登場させるあたりがホンダだった。
だったと過去形になっているのは、最近のホンダで気概を感じるのは市販車FF最速を目指し切磋琢磨を続けているシビックタイプRくらいだからだ。

まとめ
ホンダはこれまで本当にたくさんの独創性のあるクルマを登場させてきた。N-BOXが売れているのも、ライバルを凌駕する魅力をホンダが独自に盛り込んでいるからだろう。
しかし、現在のホンダに満足していないかつてのホンダを知るクルマ好きが多いのも事実だ。
グローバル戦略により北米や欧州向けに開発された車両を日本に送り込んで苦戦するなら、昔のようにホンダにしかできない独自路線のクルマに期待しているホンダファンは多いと思う。
