改革に取り組む矢先にコロナ禍の日産と三菱自
そんな危うさがつきまとう自動車各社だが、中でも危機的状況に置かれているのは、仏ルノーと企業連合を組む日産と、その傘下の三菱自である。
この4~6月期は日産が2855億円、三菱自が1761億円の最終赤字に陥ったほか、通期でもそれぞれ6700億円、3600億円の赤字を予想、合算すると1兆円を超える。
両社とも前期に続き2年連続の最終赤字になる見通しで極めて深刻だ。業績不振の要因は新型コロナの影響ばかりではなくそれぞれに”お家の事情”の深い悩みを抱えていることも見逃すわけにはいかない。
改めて説明するまでもないが、ともに、企業連合の経営トップで2018年11月に逮捕されたカルロス・ゴーン被告のただならぬ「覇権への執念」で無茶苦茶に進められた「台数優先」の拡大路線が行き詰まり、その後遺症に苦しんでいるのが実態だ。
このため、悪化した業績の早期回復に向け、改革に取り組む矢先に、新型コロナの感染拡大が足を引っ張った。まさに踏んだり蹴ったりで瀬戸際に立たされている。
一方、日産に43.4%を出資して筆頭株主のルノーは2020年1~6期の最終損益が72億9200万ユーロ(約9000億円)の巨額赤字を計上した。上半期の赤字はリーマン危機後の2009年以来11年ぶりで、過去最悪の赤字決算だったという。
2020年通期の業績予想は公表できる状況ではなく見送ったが、ルノーの上半期の赤字に日産と三菱自の通期予想を単純に合算すると、3社連合の最終損益は2兆円に迫る。
構造改革費用がかさむという特別の事情もあるが、コロナ前の三菱自の売上げ規模は約2兆円強。その売上高が丸ごと吹き飛んでしまうほどの衝撃的な赤字額だ。
ゴーン政権下の「負の遺産」の解消は容易ではない
日産の場合、2019年度に計上した構造改革費用や減損損失だけでも6000億円以上に達しており、20年前にゴーン被告が打ち出した「日産リバイバルプラン」で発生した7000億円の特別損失に匹敵する規模になる。
ゴーン被告が”コストカッター”の異名を持ち、長きにわたりトップに君臨し続けてきたのは、村山工場などの閉鎖や2万人を超える従業員のリストラを短期間に断行してV字回復を遂げたからでもある。
ところが、その当時とは経営を取り巻く環境や再建の課題は大きく異なっているために比べようもないが、ゴーン政権下の「負の遺産」の解消は容易ではない。
構造改革やコロナ対策の費用がさらに膨らむことになれば黒字転換の見通しも大幅に遅れる可能性もあり、2兆円の巨額赤字を背負う日仏連合はこの先も厳しい試練が続くことになるだろう。
何よりもヒット車を出すことが必要
もっとも、困難から逃避するだけでは復活の道筋は見つかるものではない。困難は一つのチャンスでもあるが、コロナの収束が見えない中でも、日産・ルノーと三菱自はそれぞれ無理な拡大戦略に終止符を打つ”復活のシナリオ”を公表した。
日産は開発が遅れていた新型車の投入を加速させるとともに、インドネシア、スペインの工場閉鎖を含めた世界で生産能力を2割削減する方針だ。
三菱自では稼ぎ頭の東南アジアに経営資源を集中させながら、子会社のパジェロ製造の工場閉鎖や労務費を15%削減するなどのスリム化を打ち出した。
ルノーも過剰設備や1万5000人規模の雇用削減などの大リストラに着手するという。
業績回復に向け、痛みを伴うリストラはやむを得ないが、反転攻勢につながる絶対の条件は、何をおいても赤字を吹き飛ばすほどの魅力溢れる”ヒット車”の誕生に尽きる。
日産では「1年半の間に『12車種』の新型車を投入する」(内田誠社長)という。
その中には6月末に発売した新型SUV「キックス」や、販売は1年先でも米テスラなどとも競えるような電気自動車(EV)の新型「アリア」なども相次いで発表している。
コロナの直撃は世界中のどこの自動車メーカーも影響を受けており、感染防止対策に温度差はあるが、差別化にはならない。
厳しい環境の中でも電動車や自動運転などの付加価値のある新車開発を着実に進められるかどうか、コロナ禍でのヒット車の投入こそが”赤字連合”の汚名を返上し、資本関係の見直し問題も含めて重要なカギを握っていることは言うまでもない。
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