SUV(スポーツ多目的車)への注目が集まっている。例えばトヨタは、ヤリスクロスとカローラクロス(ただし、タイにて)を相次いで発表した。
2019年はRAV4が復活し、販売が好調だ。ハリアーも根強い人気に支えられている。C-HRは頻繁に目にするほどの人気だ。ダイハツとトヨタから発売された、ロッキー/ライズの好調も続く。
日産は、2020年6月にe-POWER専用車種としてキックスを新発売し、2020年内の納車が間に合わないほどだという。
ホンダヴェゼルは7年目に入ってなお、存在感がある。
軽自動車でも、スズキのハスラーが2代目となり、ジムニーもベスト15位以内に入り健闘が続いている。ダイハツからは、タフトが誕生した。
輸入車に目を転じても、東京近郊で目にするのはSUVばかりといって過言ではない。しかし、これがブーム(流行)であるのかどうか? またブームならいつまで続くのかについて考察していく。
文:御堀直嗣/写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、SUBARU、MITSUBISHI、SUZUKI、DAIHATSU、PORCHE、GM、佐藤正勝、池之平昌信、ベストカー編集部
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SUVばかりが売れているわけではない
SUVがブームかどうかを検証するにあたり、まずは販売動向を見てみよう。
一般社団法人自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位によれば、2020年1~6月の1位は5ナンバーSUVのトヨタライズである。これに、同じクルマであるダイハツロッキーを加えると、販売台数は7万5884台となり、半年間に毎月1万2000台以上が売れたことになる。SUVの中でも、小型SUVの人気が高まっている証だ。
いっぽうで、2位以下の車種をみていくと、カローラ、フィット、ヤリス、ノートの順で、カローラは3ナンバーだが5ナンバーに近いセダン、ステーションワゴンと、5ナンバーのハッチバック車が上位を占めているのである。
さらに10位までを見ても、シエンタ、フリード、ルーミー、プリウス、アルファードの順であり、コンパクトミニバン、ハッチバック、大型ミニバンというわけで、SUVの車名が顔を出していない。
15位にRAV4、19位にC-HR、20位にヴェゼル、24位にマツダCX-30という状況で、堅調な売れ行きを続けているが、消費者の購買意欲がSUVばかりに偏っているわけではないことがわかる。
新しい軽SUVが健闘
では、軽自動車はどうか?
一般社団法人全国軽自動車協会連合会の軽四輪車通称名別新車販売確報によると、こちらは1~6月の集計が出ていないため、2019年度(2019年4月~2020年3月)の集計を参考にすると、ハスラーが9位、ジムニーが13位ということで、SUVが上位ではない。
トップ5は、N-BOX、タント、スペーシア、デイズ、ムーヴというスーパーハイトワゴンとハイトワゴンだ。
ちなみに、直近8月の販売動向においては、ハスラーが4位に上がり、タフトが9位、ジムニーが13位で、SUVがモデルチェンジや新登場などで上位進出をはかった。しかし、スーパーハイトワゴンの人気は盤石だ。
まとめれば、SUVに人気が集中している状況ではないが、SUV購入の希望が定着し、なかでも5ナンバー車や軽自動車でのSUVへの期待が高まっている。3ナンバー以上のSUVは、ある程度行き渡った状態ではないか。
SUVのラインナップは増殖して定着
SUVという車種が、消費者に親しまれるようになったのはいつからだろう。乗用車のブラットフォームを基本としながら、外観は4輪駆動車のような造形の車種は、1997年のトヨタハリアーからといわれる。
しかし、4輪駆動車を悪路走破のためだけでなく、市街地でも足として利用するようになったのは、1980年代前半の、いすゞビッグホーンや三菱パジェロ、米国ジープの2代目チェロキーあたりに遡る。
また1970年に登場したレンジローバーが1990年代まで販売され、それをカリフォルニア州のビバリーヒルズ近郊の富裕層が街で乗るということが始まり、国内では、1979年に登場したメルセデスベンツGクラスに都市で乗ることも始まった。
チェロキーやGクラスを運転する女性の姿を見るようになったのもこの頃で、大柄なSUVに乗ることで嫌がらせをされにくいとの声を聞いたこともある。
それでも、当時はまだ一部の人が好きで乗っている時代であっただろう。広く人気を得て、セダンやステーションワゴンから乗り換える人が大勢現れたのは、2000年のBMW X5や、2002年のポルシェカイエンが登場するようになってからではないか。
従来の乗用車の派生車種としてのSUVではなく、運転する喜びを特徴としたり、スポーツカーメーカーでありながらSUVを販売したりするといった、価値が広げられた。
また米国では、高級車銘柄であるリンカーンにナビゲーターが1997年に誕生し、続いてキャデラックにもエスカレードが生まれ、SUVが車格を問わず選択肢のひとつとなったのである。
そしてより廉価な車種でもSUVを希望する消費者が出くる。国内では、ホンダヴェゼルが高い人気を呼び、トヨタからC-HRが生まれることも起きた。
軽自動車にはハスラーが登場し、登録車の5ナンバー車としていよいよロッキー/ライズが誕生し、2020年1~6月の1位を獲得するに至るのである。
過去20年ほどの間に、SUVという車種は定着した。それは国内だけでなく、世界的な動きとなっている。
ミニバンブームと同じ道をたどるのか
かつて、1994年にホンダオデッセイが誕生し、ミニバンが一気に市場を満たした。現在、オデッセイの車名は1~6月の販売実績で4880台と、1位のライズの約10分の1だ。トヨタエスティマの名はもはや消滅している。
ただし、アルファードは10位にあり、兄弟車のヴェルファイアの台数を合わせると4万7294台となって、5位のノートと代わる順位になる。
また、セレナ、ヴォクシー/ノア、ステップワゴンは20位以内に名を残している。人気の頂点は過ぎたが、ミニバンを欲する人は定着している。
したがって今後のSUVも、一旦希望する人たちに行き渡ったあとは、ほかの車種へ移行する人もありながら、現在のミニバンと同じような堅調さで選択肢のひとつとなっていくだろう。
電動化はSUVにとって向かい風
この先の高齢化社会を見据えると、最低地上高が上がるSUVは乗り降りしにくい。そういう課題に対し、セダンやステーションワゴンへ戻る人が出てくるだろうし、スライドドアを持つコンパクトミニバンや、軽自動車が福祉車両的な側面を加えつつ、需要を満たしていくことにもなるだろう。
そういう意味でSUV人気はひと段落し、ほかの車種への移行もされながら、一定の消費者の期待の受け皿になっていくはずだ。
新たな需要としては、甚大化する自然災害に対し、地上高があったり、4輪駆動であったりすることが、悪天候や災害時においても移動を確保できる安心をもたらすことになるだろう。
あるいは電動化に際して、セダンやステーションワゴンに比べ、SUVのほうが床下へリチウムイオンバッテリーを搭載しやすいという自動車メーカーの事情もある。
メルセデスベンツのEQCや、ジャガーのE-PACEはまさにその象徴だ。そのうえで、V to H(ヴィークル・トゥ・ホーム)など電力供給能力を持てば、SUVに新しい価値を追加することになる。
実際、三菱自のアウトランダーPHEVは、各地の災害現場で家屋や施設へ電力供給を行う実績を積んでおり、RAV4 PHVも家庭電化製品などへの給電能力を持つ。
いっぽう海外の自動車メーカーは、給電の効能への視野をまだ持たないが、気候変動は世界的な動向であり、いずれ給電を望む声が世界へ広がる可能性はある。
他とは違う車種という今日までの位置づけだけでなく、災害対応の側面から、電動化と合わせてSUVが改めて見直される時代が来るかもしれない。