日本車の貴重なステーションワゴンであるスバルレヴォーグは、2020年10月15日に正式発表され2代目に生まれ変わった。そして、2020年11月26日から販売を開始となる。
スバルはレヴォーグをフルモデルチェンジするにあたり、8月20日に正式デザインを公表し、先行予約の受け付けを開始。その結果、8月20日から10月14日までに8290台を受注するなど、注目度の高さがうかがえる。
新型レヴォーグの注目ポイントは多岐にわたるが、最新のアイサイトXが搭載されたのが大きなトピックだ。
クルマは日進月歩で進化しいて、時代によってその進化のターゲットが変化している。現在クルマ関連で最も目まぐるしく進化しているのが、安全装備、運転支援装置と言ってもいいだろう。
世界初で初めて衝突被害軽減ブレーキを搭載したのは、2003年にデビューしたホンダインスパイア(4代目)だが、一般に認知させたのはスバルのアイサイトと言っても異論はないはずだ。
そのアイサイトは進化を続け、新型レヴォーグでは最新のアイサイトXに進化している。
アイサイトXはどのような先進機能を持つのかに言及すると同時に、アイサイトXは日本の安全装備を先導できるのかについて渡辺陽一郎氏が考察する。
文/渡辺陽一郎、写真/SUBARU、NISSAN、池之平昌信
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ホンダが自動運転レベル3型式指定を取得
最近は運転支援機能の進化が著しい。2020年11月には、ホンダがレジェンドに自動運転レベル3のシステムを搭載すると発表した。
レベル1とレベル2は、制御に際して「ドライバーによる監視」が必要だから運転支援機能とされるが、レベル3は「システムによる監視」へ移行する。「ドライバーによる監視」ではないから、自動運転と受け取られる。
しかしそのいっぽうで国土交通省は、「運転者は過信せず常に運転できる状況を維持する必要がある」と規定している。
レベル3の作動中でも「警報を発してドライバーによる運転操作を求める状況」が想定されるからだ。
そうなるとドライバーではなく「システムによる監視」が行われても、走行中にドライバーがスマートフォンを注視することはできない。
「ドライバーによる運転操作を求める状況」は、言い換えればシステムの手に負えない状況だから、難しい運転操作が要求される。
この時に周囲の交通状況を正確に把握できていないと、適切な対処はできない。システムとドライバーの両方による監視が必要で、レジェンドの「自動運転レベル3」も、運転支援機能の進化型と考えたい。
“ぶつからないクルマ?” が劇的進化
そして長年にわたり運転支援機能を手掛けてきたメーカーがスバルだ。1999年にレガシィランカスターADAが発売され、2個のステレオカメラを使った運転支援を実現させた。
2010年にはレガシィにアイサイトバージョン2が搭載され、割安な価格と「ぶつからないクルマ?」というCM効果で好調に売れた。
この時に衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能に対するユーザーの関心が高まり、安全装備の普及に大きく貢献した。そして2020年10月に発表された新型レヴォーグは、新しいアイサイトXを採用する。
アイサイトXは進化した運転支援機能で、そのベースには、アイサイトの性能向上がある。
新型レヴォーグはステレオカメラを全面刷新して、前側方レーダー、後側方レーダー、後部の超音波センサーも装着した。ブレーキブースター(ブレーキ力を高める装置)は電動式になり、アイサイトによる反応を向上させている。
これらの効果で、まずは衝突被害軽減ブレーキをはじめとする安全性が向上した。自車が右左折する時も、直進してくる対向車や歩行者を検知して、衝突回避が可能になる。
2車線道路などを走行中、車線変更を含めて隣車線の車両と接近した時は、警告を行って元の車線へ戻るようにステアリングを制御する。
衝突被害軽減ブレーキの作動中も、ブレーキ制御だけでは衝突回避が困難と判断された場合、左右にスペースがあれば操舵による回避操作を支援する。
前側方レーダーも採用したから、左右の見通しが利かない枝道などから大通りに出る時など、側方から接近する車両を検知して警報を発したり衝突被害軽減ブレーキを作動させる。
これらの安全装備は、世界初ではないが先進的な部類に入る。スバル車としてなら初採用の機能も多い。
アイサイトXは運転支援機能が高度化
そしてアイサイトXは、運転支援機能をさらに高度化させている。自動車専用道路において作動するシステムで、衛星からの情報や3D高精度地図データも使う。
アイサイトXで最も注目されるのは、時速約50km以下の渋滞時に作動するハンズオフ(手離し)機能だろう。
作動中はステアリングホイールを保持していなくても操舵制御が続き、一定の車間距離を保ちながら先行車に追従走行する。ステアリングとペダル操作の両方が軽減され、渋滞時の停止と発進も支援される。
ドライバーモニタリングシステムも併用され、ドライバーが前方を見ていない時は、ステアリングホイールを保持するように注意を促す。
それでも反応しない時は、ドライバーに異常が発生したと判断する。運転支援を続けながら減速して、ハザードランプとホーンも作動させ、異常の発生を周囲に知らせる。
なおレヴォーグには、通信機能を使ったSOSコール機能などが採用され、エアバッグ作動時には自動的にコールセンターへ接続される。乗員に呼びかけを行い、応答しない時は消防や警察に自動通報する。
それなのにドライバーモニタリングシステムがハンズオフ走行時の異常を検知しても、通信機能とは連携しない。
ドライバーの異常を把握できるのだから、エアバッグ作動時と同様、コールセンターへの自動接続や消防と警察への通報も行うべきだ。
アイサイトXでは、高速域の運転支援機能も向上する。
先行車がいない時でも、カーブの手前では減速するなど速度制御を行い、料金所を通過する時も30~35km/hまで下げる。
アクティブレーンチェンジアシストの機能もあり、70~120km/hで走行中、ドライバーが方向指示機を作動させると、車線変更の操舵支援を行う。
高性能ながら安いのが魅力
このようにアイサイトXは、渋滞時のハンズオフアシストを含めて、運転支援機能を幅広く向上させた。
ちなみにスカイラインに採用されるプロパイロット2.0には、高速走行時のハンズオフ機能も備わる。
従って高速道路上では、長距離にわたってハンズオフ走行を行える。その代わり価格も高く、プロパイロット2.0を標準装着するハイブリッドは、これを備えないターボエンジン搭載車に比べて120万円以上高い。ハイブリッドの対価を除いて、プロパイロット2.0単体に限っても60万円に相当する。
その点でレヴォーグのアイサイトXは割安だ。アイサイトXを備えるグレード名の末尾にEXが付くタイプは、38万5000円高いが、そこには11.6インチディスプレイやコネクティッドサービスなどのセットオプション(27万5000円)も含まれる。
つまり高度運転支援システムとなるアイサイトXの正味価格は11万円だ。この金額で渋滞時のハンズオフ機能、カーブや料金所の手前で減速する制御などが行われるなら割安だ。
車間距離を保ちながら先行車に追従走行できる運転支援機能は快適だが、慣れてしまうと、カーブや料金所における減速を怠りやすい。
設定した速度が100km/hとすれば、先行車がいない場合、カーブにも同じ速度で進入しそうになる場合がある。カーブの速度調節は、運転支援機能が本来行うべき制御だろう。
アイサイトXは、運転支援機能の安全性と快適性を高める。その価格が11万円だからレベル2でも割安感が伴い、今後の運転支援機能の性能と価格にも影響を与えるだろう。
以前のアイサイトバージョン2と同様、新型レヴォーグのアイサイトXも、安全装備と運転支援機能をリードしてほかの車種の進化も促す。日本車の安全装備と運転支援機能に、いい刺激を与えてくれる。