実車では手が届かない憧れのクルマが、RCカーで手に入る。プラモデル感覚で組み立てて、実際に走らせることもでき、いつでも手にして眺めることもできる。そんな楽しみ方ができるのもRCカーの魅力だ。
今回、「フォード・エスコート」がRCカーでリバイバルすることを、タミヤが発表した(2021年上半期発売予定)。
このクルマは、1998年頃にWRCで活躍した一台であり、スバルインプレッサや三菱ランサーエボリューションと激闘した「フォード・エスコートWRカー」のロードカー版として登場する予定だ(筆者はまさにこの頃のWRCにハマった世代だ。こうしてご紹介できるのは非常に光栄だ)。
今回は、90年後半のWRC通ならばよく知っているフォード・エスコートのRCカーを見ながら、1997-98シーズンでのWRCの様子を振り返ってみようと思う。
文/吉川賢一、写真/株式会社タミヤ、Ford、MITSUBISHI、SUBARU
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■WRカー黎明期に登場したフォード・エスコートWRカー
1/10RC 1998 フォード エスコート カスタム (TT-02シャーシ)(リンク先)
この白いボディの写真だけだと、これが何のクルマなのか、分かる人は少ないだろう、だが、このクルマが活躍した97-98年にかけてのWRC黎明期を知れば、興味がわいてくるかもしれない。
1996年から1997年にかけて、WRC(世界ラリー選手権)は、ルールが大きく変わった。それまで、トヨタや三菱、スバルといった日本車メーカーのマシンが大活躍していたグループA規定が終わりを迎え、1997年からは、新たな車両規則「WR(ワールドラリー)カー」が開始したのだ。
それまでグループAのラリーカーのベースとなっていたのは、4人乗りの大量生産車のみで、外観は市販車そのもの、かつ、連続する12か月間に2500台以上生産された車両という、厳しいルールだった。
また、改良車を使う場合には追加生産が必要でもあった。ランエボが毎年のようにエボリューションモデルを市販していたのは、グループA規定に対応するためだ(ちなみに三菱はWRカー規定開始後もグループAで参戦していた)。
新しい「WRカー」規定は、このグループAよりも改造範囲が大きく、車幅(トレッド)の拡大や、駆動方式の変更までも認められたことで、前年まで参加していたメーカーはそれぞれ新型のWRマシンを開発してきた。その中で、フォードが開発してきたのが、「フォード・エスコートWRカー」だ。
前年まで使用していたエスコートRSコスワースをベースにしたエスコートWRカーは、1997年のモンテカルロでデビューした。当時のフォードチームのエースドライバーは、1996年にドライバーズランキング3位を獲得したスペイン人の名ドライバー「カルロス・サインツ」。
第1戦モンテカルロ、第2戦スウェーデンと連続で2位入賞するも、その後は2戦連続リタイヤ。第6戦のツール・ド・コルス(フランス)で、サインツがスバルのコリン・マクレー(インプレッサWRカー)に7秒差まで迫る2位に入賞。
ようやく初勝利を上げたのは第8戦のアクロポリスで、サインツとカンクネンがワンツーフィニッシュを達成。その後の11戦目ラリーインドネシアでもサインツ、カンクネンが1-2フィニッシュを挙げた。
しかし、スバルインプレッサを駆るマクレーと、三菱ランサーエボリューションを駆るマキネンの強さについていけず、この年は、ドライバーズタイトル3位(1位はマキネン、2位はマクレー)、マニュファクチャラーズは2位(1位はスバル)という結果となった。
続く1998年シーズンも、同じエスコートWRカーで参戦したフォードは、サインツに代わってエースドライバーとなったユハ・カンクネン(サインツはトヨタチームへ移籍した)が、モンテカルロ2位、アルゼンチン、アクロポリス、フィンランドで3位入賞。
その後は、WRC最終戦のラリー・オブ・グレートブリテンで2位、3位に入賞したものの、ドライバーズ4位、マニュファクチャラーズ4位と低迷。翌年からは次世代のWRカー、フォーカスWRカーへとバトンタッチをした。
ちなみに98年のドライバーズチャンピオンはマキネン、マニュファクチャラーズも三菱が獲得した。
フォード・エスコートWRカーは、フォードの慢性的な資金不足が原因で開発費がたびたび削られ、戦闘力向上はほとんどなされなかった悲運のマシンであった。また、インプレッサ、ランエボ、そしてカローラといった日本車メーカーが猛威を振るっていた時代だけに、応援したくなったクルマでもあった。
この97-98シーズンのWRCは、筆者にとっては記憶に残る名シーズンだ。ちなみに筆者は当時から、スバルインプレッサWRカー、そしてマクレーの大ファンだ。
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