【絶滅か!? 進化か!?】ニッポンのガラパゴス変速機「CVT」の行方

【絶滅か!? 進化か!?】ニッポンのガラパゴス変速機「CVT」の行方

日本車に多く使われているCVTはあまり諸外国では使われていないため、ガラパゴス変速機とさえ言われています。CVTは、独特のダイレクト感に乏しいフィーリングや特有の作動音に違和感を覚えている人も多いでしょう。

その反面、トルコン式ATよりもストップ&ゴーの多い日本の都市部ではよりスムーズに走行することができ、燃費がいいというメリットがあります。

さて、このCVT、これから生き残っていくのでしょうか? テクノロジーに強いモータージャーナリスト・高根英幸氏が解説します。

文/高根英幸
写真/ベストカーWeb編集部 
出典/トヨタ、日産、ジヤトコ


■まずはCVTを理解する

CVTとは無段変速機のこと。一般的には金属ベルトとプーリーを使ったエレメント式のことを指すが、実はクルマ用のCVTにもいろいろな構造がある。

例えばプリウスに使われているTHSのハイブリッド機構は、遊星ギアの回転をモーターがコントロールすることで、無段階に減速比を変化させられるため、電気式CVTと呼ばれている。

■理想といわれたエクストロイドCVTの失敗

その昔、日産とジヤトコで共同開発したトロイダル式CVT(商品名はエクストロイドCVT)というCVTもあった。

これは鼓型に向かい合う入力と出力側のディスクの間にローラーを当て、それぞれのディスクに当たる角度を変化させることで変速を行なうユニークで伝達効率に優れたCVTだったが、非常に高い加工精度が要求された変速機だった。

しかも作動に関しても精密さがシビアすぎて、あっという間に姿を消してしまった。

1999年11月に発売された日産セドリック、グロリアに搭載されたエクストロイドCVT。期待は大きかったが、300LX-Z Sパッケージ(セドリック)の477万円とATモデルよりも50万円高となったためか人気を得ることはできなかった

エクストロイドCVTの基本メカニズム。変速機の中心はディスク(入力&出力ディスク)とパワーローラーから構成される。エンジンの動力を受けた入力ディスクの回転は、パワーローラーから出力ディスクへと伝えられる。パワーローラーの傾きを連続的に変えることで、滑らかな無断変速を行う

チェーン式はエレメント式に比べて屈曲性が高いため、プーリー径を小さくすることができる。つまり縦置きの変速機に使うことで幅広い変速比と無段変速を両立できるメリットがあるのだ。

スバルやアウディが採用した理由はまさにここにある。チェーンのピン部分だけがプーリーに接触するので、エレメント式に比べて騒音が出やすいのが難点だが、防音性を高めることで解決させている。

チェーン式のメリットとして許容トルクが大きいイメージがあるが、実は金属ベルトも今や400Nm(40.8kgm)を許容するほどの容量を誇るCVTが存在するから、容量面での優位性はそれほど大きくない。それくらいCVTは進化しているのである。

チェーン式を採用するスバルのリニアトロニック。一部車種にはアクセルを踏み込まない「低開度」時は、滑らかな無段階変速。 ドライバーがぐっと踏み込みアクセルが「高開度」になると、自動的にステップ変速に切り替わり、エンジン回転がぐっと伸びてリニアな加速が味わえるオートステップ変速切り替えモードが用意されている。また300ps/40.8kgmのWRX S4やレヴォーグの2Lターボにも耐えうる設計

ちなみにエレメント式のCVTはベルトがプーリーを押すようにして力を伝える(エレメント=要素の意で、この場合は金属コマの1つ1つがエレメントで、薄いスチールベルトがエレメントを連結している)のに対し、チェーン式はプーリーを引っ張ることで力を伝える。構造は似ていても、実は考え方は真逆な部分も存在するのだ。

さて、エレメント式CVTに話を戻すと、この構造は1970年にオランダで考案され、欧州の自動車メーカーや日本のスバル(ジャスティ)などが1980年代に小型車に採用している。

そして一度市場から消えた後に特許が切れたこともあって、日産やホンダ、トヨタなどの自動車メーカーとジヤトコ、アイシンなどの変速機メーカーが独自の技術を盛り込んだCVTを開発して搭載していくのである。

ホンダマルチマチックのエレメント式ベルト

それ以来、CVTは特に日本のコンパクトカーの主要な変速機として普及してきた。そのいっぽうで、日本車以外では採用されたケースは少ない。

初代BMWミニのCVT、それに先代のメルセデスAクラス/Bクラスに採用されたりしているが、欧州ではやはり少数派だ。

それは、MTが主流で多段ATも少ないという地域性だけでなく、やはり無段変速ならではの滑らか過ぎる加速がエンジンのトルクの盛り上がりを感じにくくさせてしまい、ドライビングの楽しさを損なったり、違和感を感じさせてしまうからだろう。スポーツカーにCVT搭載車がないのは、これらが理由だ。

そもそも金属ベルト式のCVTは、様々な矛盾を抱えた伝達装置であり、それをホンダや日本の変速機メーカーが地道な努力を続け、難題を克服してきた。

金属ベルトとプーリーで駆動力を伝達する、ということはプーリーがベルトをがっちりと挟み込んで摩擦力によって駆動力を伝えると同時に焼き付きを抑え、なおかつプーリーからベルトが離れていく部分では滑らせることが必要になる。

その上で変速時にはプーリーの幅を変化させてベルトを挟み込む位置を変える。つまり、ベルトを直径方向には滑らせながらも円周方向では摩擦させるという芸当をこなしているのだ。

次ページは : ■多段ATやMT、DCTと比べるとCVTの伝達効率は劣る

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