世の中には消費者から圧倒的な支持を受けるクルマもあれば、そうでないクルマもある。売れないクルマは必ずしも完成度が低いわけではない。
今回はそんななかから、実は完成度は高いのにその車名が原因で売れていないクルマを5台集めました。「名前さえ違えば……」。そんな声も聞こえてきそうなクルマたちが登場します。
文:渡辺陽一郎/写真:日産、ホンダ、SUBARU
■日産スカイラインはファンの心理を忘れたか?
ファンから総スカンにされながら、完成度の高いクルマもある。それは主に過去の人気車だ。1980年代までは国内向けに開発されて高い人気を得ていたのに、1990年代の中盤以降になると海外指向が強まり、売れ行きを下げた車種が目立つ。
切っ掛けは日本の自動車税制が「非関税障壁」と避難され、1989年に3ナンバー車の税制不利を撤廃したことだった。
当時は日本メーカーの海外進出が活発化していた時期でもあるから、税制改訂を良いことに、海外向けの3ナンバー車を国内にも流用した。
メーカーは、大きな3ナンバー車になればユーザーは喜び、ボディを海外仕様と共通化できて合理的だと考えた。
ところがファンに不満を持たれて売れ行きを下げてしまう。原因はボディの拡大というより、海外向けのクルマ造りにあった。デザインや運転感覚が日本のユーザーを離れて、総スカンにされたのだ。
今でも日本では軽自動車を含めて5ナンバー比率が高く、国内市場全体の65%を占める。残りの35%は3ナンバー車だが、プリウス、C-HR、ヴェゼルなどエンジン排気量が2L以下のミドルサイズが売れ筋だ。
それでもクラウンやアルファード&ヴェルファイアのように、大柄な3ナンバー車で堅調に売れる車種もある。売れるか否かの分かれ目はサイズではなく、「どこの市場に向けて、誰のために開発したのか」なのだろう。
海外向けの3ナンバー車を国内に持ち込んだことで売れ行きを下げた車種として、まずスカイラインが挙げられる。
スカイラインは1964年に、2代目に2Lエンジンを搭載するGTを設定して、1969年には3代目の初代GT-Rが注目を浴びた。
1972年には4代目が「ケンメリ」の愛称で親しまれ、1973年に15万7598台(1か月平均で1万3133台)を登録している。
この台数は2017年の54倍で、小型/普通車の販売首位とされるノートの月販平均(1万551台/2018年度上半期)よりも多い。当時のスカイラインは物凄い売れ行きだった。
この後のスカイラインは、ほかの日産車が人気を得たこともあって売れ行きを徐々に下げるが、8代目のR32型が発売された1989年には9万1774台を登録している。
ところが1993年の9代目で3ナンバー車になり、1996年には3万6427台に下がった。1998年の10代目ではボディを少しコンパクトに抑えたが人気は回復せず、2001年に11代目になっても1万9961台と低迷する。現行型の13代目は、2017年がわずか2919台であった。
1990年代の中盤以降、日産車ではミニバンのセレナやコンパクトカーのキューブが人気を高め、2000年にはエクストレイルも発売されてスカイラインの販売力が下がってきた。
現行スカイラインは緊急自動ブレーキが歩行者に対応せず、エンブレムをインフィニティにするなど販売意欲も低下した。これでは売れなくても仕方がない。
しかし機能的には悪くない。操舵感は少し前の北米指向だから、妙に機敏に曲がって不自然だが、プラットフォームを入念に造り込んだから走行安定性に不満はない。
スポーツ感覚の分かりやすいセダンを求めるユーザーに適するだろう。
後席の居住性も相応に快適で、乗り心地は硬めながらも粗さを抑えた。4名で乗車して長距離を移動する使い方にも対応している。
メルセデスベンツやBMWなどの欧州車は、過度に機敏な(表現を変えると少し玩具的で子供っぽい)操舵感覚には仕上げないから、スカイラインの走りには個性があるといえるだろう。
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