世の50歳以上のクルマ好きは、その多くがスーパーカー世代。彼らにとって、リトラクタブルヘッドライトは憧れの的、ヒーローだった。
カウンタックやフェラーリ512BBに憧れ、現実の世界ではRX-7やMR2、セリカXX、流面形セリカ、ユーノスロードスター……。
いかにも空気抵抗がよさそうなヘッドライト格納時から一転、ヘッドライトがパカッと開くと、ギョッとし、微笑ましく思ったものだ。
さて、そんなリトラクタブルヘッドライト車を装着した最後のクルマとなった日本車、FD-3S型RX-7が2002年8月に生産中止されてから、もう17年も経つのだ。
平成から元号が変わる新時代を迎えますが、今のうちにリトラクタブル車に乗ってみませんか?
文/清水草一
写真/ベストカー編集部、清水草一
■リトラクタブルヘッドライト車は男の子の永遠の憧れ!
男の子は可動部品が大好きだ。私も幼少の頃、ミニカーのドアやボンネット開閉に萌えたものです。しかし、クルマのドアやボンネットが開くのはアタリマエ。逆に普通のクルマでは動かない部分が動くクルマは、それだけでスーパーだ。
その代表がヘッドライト。リトラクタブルヘッドライト(略してリトラ)は、男の子の永遠の憧れだ。正確には「憧れだった」と言うべきか。
日本の少年たち、ひいては日本人全体が、リトラクタブルヘッドライトというものの存在を広く知ったのは、1976年から始まったスーパーカーブームによってだろう。
世界初のリトラ搭載車は、戦前のアメリカで少量生産された「コード810」というクルマだったらしく、国産初のリトラ車も、1967年発表の名車・トヨタ2000GTだが、リトラに対する熱狂というような状況が生まれたのは、間違いなくスーパーカーブームから。その主役は、1974年に発売されたランボルギーニカウンタックだ。
カウンタックのリトラは、ノーズの先端ではなくその後ろ側にあり、横長の長方形に左右2灯ずつ、丸形ヘッドライトが内蔵されている。
リトラというものは、基本的にノーズを低くするために存在するので、開いた時はスタイリングのバランスが微妙に崩れて感じられることが少なくないが、カウンタックは、この後ろ寄りの位置のせいもあって、非常にバランスがよくカッコいい。
■ポップアップすると片手運転になってしまったカウンタック
私は2010年にランボルギーニ・カウンタック・アニバーサリーを購入し、半年間所有していたが、カウンタックのヘッドライトボタンは、左側のダッシュボード上にあって、押すにはシートから軽く背中を離して手を伸ばす必要があった。その時はもちろん片手運転になるのだが、その瞬間、太いタイヤとヘタッったサスペンションブッシュのせいで、直線でも進路が乱れてしまう。
助手席の同乗者がそのたびに非常にビビり、「清水さん片手運転やめてください~」と何度も言われたのが鮮明に記憶に残っている。でも片手運転しなけりゃトンネルに入れないのだから仕方ない。
スーパーカーブーム当時のフェラーリのフラッグシップといえばBB。BBのリトラもカウンタック同様、スモールランプ後方に左右2灯ずつの丸形4灯という構成だ。
カウンタックやBBに熱狂したスーパーカーブーム当時の少年たちは、ヘッドライトが上がっている状態の写真を撮りたいと熱望し、身を挺してクルマの前に立ちはだかり、「ヘッドライトを上げてください!」と頼むこともあったという。私はやってませんが……。
フェラーリもリトラの印象が非常に強い。フェラーリはデイトナの後期モデルからリトラを導入したが、BB、テスタロッサ系と続き、V8モデルも308からF355までリトラだった(現在は廃止)。
私はこれまで計9台、リトラを持つフェラーリを購入したが、リトラが故障したのは、512TRの1回だけだった。走行中、片方のリトラが空気抵抗で半開きになり、戻らなくなってしまった。リトラ用モーターの故障で、確か修理に10万円ほどかかったように記憶している。
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