F1年間予算の内実と今後 年600億は何のため? F1マネーの真相【後編】

F1年間予算の内実と今後 年600億は何のため? F1マネーの真相【後編】

 F1マネーの真相【前編】では、F1チームに支払われる「分配金」に迫った。今回の【後編】はF1チームが何に、どれだけお金を使っているのか?

 そして、F1の“支配者”が代わり、変化が見られそうな『F1と金』の今後に迫る。

 文:段純恵/写真:RedBull contentpool


フェラーリの“特別扱い”は今後変化の可能性も

 2017年シーズンからF1を完全支配することとなったリバティメディアだが、分配金問題についていまだ明確な方針を示しておらず、現在のコンコルド協定が有効な間(2020年まで)はチームにとって大きな変化はなかろう。

 しかしその後、リバティメディア主導のもとで編まれる新コンコルド協定、或いはアメリカ的『平等』のもとで策定される別の約定が、欧州的旧態依然とした現在のシステムと取って代わる可能性は充分考えられる。

 そうなると、現状に不満を持つチームには朗報でも、現在高額の分配金を得ているフェラーリ以下の4チーム(メルセデス、レッドブル、マクラーレン・ホンダ)は黙っていまい。

 2005年のF1分裂騒動の際、バーニー・エクレストン氏は、8000万ドル(約88億円)の特別分配金でフェラーリを買収し、騒動を終息させた。

 リバティメディアが今後どのような方針を描くにせよ、その焦点にフェラーリとの交渉があることは確かだ。

2017年は度々現場に訪れているリバティメディアのトップ、チェイス・キャリー氏(右)。アメリカ式の新たな運営となれば、これまでいわば“長年の貢献料”として、成績とは別にアドオンされていた分配金がカットされ、有力チームにとっては大打撃となる可能性が大いにある
2017年は度々現場に訪れているリバティメディアのトップ、チェイス・キャリー氏(右)。アメリカ式の新たな運営となれば、これまでいわば“長年の貢献料”として、成績とは別にアドオンされていた分配金がカットされ、有力チームにとっては大打撃となる可能性が大いにある

F1チームの年間予算は上位と下位で約6倍も違う

 さて、ここでF1チームの年間予算についてふれておこう。2015年のデータになるが、レッドブル、メルセデス、マクラーレン、フェラーリは日本円に換算して約600億円前後でダントツ。

 最下位がマノーの約100億円だからその差は6倍と、大企業と中小企業ほどの違いがある。

各チームの予算は「ビジネス/ブックGP」調べ。当時のレートである1ユーロ=138円で計算
各チームの予算は「ビジネス/ブックGP」調べ。当時のレートである1ユーロ=138円で計算

 チーム収入の中身をみると、スポンサー料、パートナー料、分配金となっているが、スポンサー料の少ないマクラーレンの場合、分配金の2倍ほどのパートナー料(ホンダからがほとんどか?)でチームを運営している。

 年間600億円もの運営費が何にどう使われるのかというと、一般企業と同様、どのF1チームでも人件費の割合が支出の多くを占めている。

今やF1技術者も有名大卒で高給取り!?

 最低限の空力開発とパーツのアップデートしかできない下位チームでも50~60人、上位になると4~500人規模のチームもあるが、平均すると1チームざっと300人ほどか。

 2人のドライバーの契約金もチームによって様々だが、トップクラスの場合2人でざっと50億円。

 CEOやナントかダイレクターやチーフデザイナークラスにも億単位の給与が支払われており、オイリーボーイは薄給の滅私奉公、なんてのも遙か遠い昔の話。

 いまやメカニックでもグランプリを転戦する『レース担当』ともなれば、日本の大卒初任給の数倍の収入を得ている人はざらだ。

 また、ハイブリッドやターボの導入でその道の設計者や技術者も必要になり、いまF1チームにはケンブリッジやオックスフォード、ロンドンなど有名大学卒の専門スタッフ(当然、専門職に相応しい高給が支払われる)がゴロゴロしている。

F1業界にかぎらずとも、人件費は支出の大きな割合を占めるもの。最近のF1では技術者の給料も高騰している!?
F1業界にかぎらずとも、人件費は支出の大きな割合を占めるもの。最近のF1では技術者の給料も高騰している!?

 加えて風洞設備、加工設備、テスト設備、シミュレーション関係のソフトも常にアップデートし最新のものにしていないと競争力は保てないことから、トップチームであり続けるには、年々の投資が必要だ。

 莫大なカネが動くスポーツは他にもあるが、いまのF1はその額にみあうだけのエンターテイメントや技術のフィードバックを世の中にもたらしていると言えるだろうか。

 チーム、主催者、株主はもちろん、ドライバーはじめF1に関わるひとりひとりが、それを考える必要に迫られている。

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