■本気を出せばあっという間に普及も
自動車市場を分析するにあたってもっとも大事なのは、自動車というのは究極のマス商品(広く大衆に普及する商品)だということである。
通常、マス商品というのは価格が安いものが多く、高額商品はたいていの場合ニッチ(隙間)商品にしかならない。だが、自動車だけは別格で、高額商品でありながらマス商品を兼ねており、経済学的に見てこうした財(経済学では有形な商品のことを財と呼ぶ)は珍しい。高額商品とマスを兼ねるという特殊な商品であるが故に、自動車産業は国家の屋台骨となっているのだ。
マス商品というのは、ほぼすべての人が購入するのでユーザーの大半はその商品(特に技術)に対して、何のこだわりも持っていない。そうなると、購入の決め手となるのは、価格と利便性、商品イメージ、普及レベル(知人・友人が所有しているといった理由)などであり、この4項目を無視してしまうと致命的に市場動向を見誤る。
現実問題として、一部を除き自動車は週末にしか運転しない人がほとんどである(日本に存在する自動車の9割はほとんど稼働していない)。数百キロというロングドライブによく出かける人も少数派であり、多くは近くのショッピングモールへの行き来が中心だろう。こうしたユーザーは、価格が安く、静かで、面倒な作業が要らないクルマを選ぶ可能性が高い。
EVは基本的に自宅で充電できるのでガソリンスタンドに行く必要がない。筆者もそうだったが、クルマが好きな人なら、洗車とちょっとした整備、給油というのはセットになっており、そのプロセス自体を楽しむことができる。だが、多くの一般ユーザーにとって一連の作業は面倒なものでしかないのが実状だ。家の駐車場にクルマを停めている間に充電でき、価格が安く、排気ガスも出ない(臭いがない)となれば、多くはEV(特にBEV)を選択するだろう。
日本では集合住宅における充電設備が少ないという課題があるが、200Vのコンセントを設置するのはそれほど難しいことではなく、コスト的にも大した問題ではない。それこそ政府が本気で補助すれば、あっという間に設置が進むと予想される。
■音楽業界はすさまじい勢いで変わった
日本は人口減少が進んでいることから、地方を中心にガソリンスタンド(GS)が急激な勢いで消滅している。仮にHV(ハイブリッド)が主流になるにしても、ガソリンの需要はざっと半分以下になるので、さらに多くのGSが消えていくだろう。
経済学的な原理原則として、販売数量が減少した場合、事業者は価格を上げて収益を維持しようするので、ガソリン価格はむしろ上がっていく可能性すらある。
今後はガソリン車に乗っていると、給油のためにわざわざ遠いGSまで行き、高いガソリンを買わなければならなくなる。繰り返しになるが、自動車を保有している人の大半は、残念ながら自動車そのものには何のこだわりも持っていない。こうしたユーザーは、迷わずEVを選択してしまうのではないだろうか。
先ほど筆者はオーディオが趣味だと述べたが、今でも、音楽を聴くベストな方法は「アナログの音源を低出力のアンプで出力し、逆に高能率の大型スピーカーで鳴らすことだ」と思っている。だが、音楽市場の動きはまったく逆であった。
レコードからCD、そしてMP3、さらにはネット配信へとシフトし、音質はことごとく無視されてきたが、今ではスマホさえあれば、全世界のあらゆる人が音楽を楽しめる環境が出来上がっており、大半の消費者はこれを支持している。しかもこの間に、主要なプレイヤーはめまぐるしく変わってきた。
IT業界には、デジタルネイティブという言葉があり、市場動向を理解するキーワードになっているが、この概念は自動車業界にも当てはまるだろう。
デジタルネイティブというのは、生まれた時からデジタル環境が身近にある世代のことを指し、この世代は消費行動が従来世代とはまるで異なる。自動車業界においても、今、生まれた子どもが大人になる頃には、EVの存在が当たり前となっており、ガソリン車に対する概念も大きく変わっているはずだ。
EVネイティブが主力購買層になった時、現時点のマーケティングやブランディングはほとんど通用しないと思った方がよい(市場で噂されるアップルカーはまさにデジタルネイティブとEVネイティブをターゲットにした製品となるだろう)。
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