ベストカー本誌連載企画でお馴じみの元GT-R開発責任者、水野和敏氏は大容量バッテリーで動力性能と航続距離を稼ぎ出す現在のEVに異議を唱えている。
その水野氏がトランスミッションや4WDなどの駆動系部品を開発・生産する部品メーカー、ユニバンスが開発した「DMMアクスル」搭載車に試乗!
このDMMアクスルは48Vバッテリーを使い、コンパクトなモーターと変速ギアを組み合わせることで高い電費性能とスポーティな走りを両立しているという。
いったいどんなEVに仕上がっているのか、迫ってみたい。
文/ベストカー編集部
写真/西尾タクト
初出/ベストカー2019年11月26日号
【画像ギャラリー】48Vバッテリーでスポーティに走るDMMアクスルの秘密とは?
水野和敏氏が理想とするEVとは?
「今のEVは間違っている」。
恒例のベストカー本誌連載企画、「水野和敏が斬る!!」の取材中に水野さんがボソリと口にした。
「航続距離を伸ばすためにバッテリーの容量を大きくする。するとバッテリー自体の容積は大きくなるし、重量も重くなる。大容量バッテリーを作るための資源も大量になるし、製造にかかるエネルギーも莫大。
クルマが重くなればパワーウェイトレシオ、トルクウェイトレシオが大きくなり、ますます大パワーモーターが必要になる。悪循環でしかないのが現在のEVの高性能化の現実なのだ」。
水野さんの思うところを要約するとこういうことだ。
「EVにはトランスミッションが組み合わされていないけど、そもそもそれが間違い」とも付け加えた。
一般的に電気モーターはフレキシビリティが高いため、発進から高速域まで変速機を用いずに使用できるとされている。
「モーターは回転数が低ければ低いほど効率がいい。磁石とコイルの反力を動力源とするのがモーター。回転数が高まるにつれて反力が減少するのに加え磁石自体が抵抗となってトルクはどんどん小さくなっていく。
トルクは回り始めが一番大きいのがモーターの特性なのだから、低い回転をうまく使ってやるほうが理にかなっている」というのが水野さんの主張だ。
さらに「今のEVはF1エンジンをトランスミッションなしで使っているようなもの」と言う。
市販EVでは最大トルク25〜30kgm程度、最高出力150〜200ps程度のモーターはおおよそ1万4000rpmあたりまで回すという。
このために搭載されるバッテリーは350V程度という高電圧で容量は35〜50kWhという大容量が求められる。
小型モーターを変速機と組み合わせる逆転の発想
静岡県湖西市に本社を置く株式会社ユニバンスは、トランスミッションや4WDのトランスファーなどを開発、製造する歴史ある部品メーカーだ。
国内自動車メーカーでは日産やホンダ、スズキなどにトランスミッション部品やトランスミッション自体を納品するなどの実績がある。
このユニバンスが開発したのが「DMMアクスル」。デュアル・モーター・マルチ・ドライビング・アクスルの頭文字を取ったものだが、簡単に言えば、ハイ&ロー2段切り替え小型トランスミッションの2つの小型モーターを組み合わせて、一体式パワートレーンとしたもの、となる。
このワンパッケージは非常にコンパクトで、今回の試作車トミーカイラZZの前後アクスル内に収まるサイズ。
何が革新的なのか!?

モーターひとつは15kWというから20ps程度である。これを2つ搭載するのだからトータル出力は40ps程度。トルクは55Nmなので5.6kgm程度×2で11.2kgmだ。ガソリンエンジンで言えば1L、NAレベルということになる。
しかし、ポイントはハイ&ローの2段ギアを組み合わせているということ。前出の水野さんの言葉通り、モーターは低回転時に大きなトルクを出す。
DMMは2つのモーターと2つのギア段を巧みに組み合わせて1/1モーター+ローギア2/1モーター+ハイギア3/2モーター+ローハイ直結4/2モーター+ハイギアと4つのモードでドライブする。
2つのモーターは、一方はローギアに、もう一方はハイギアに直結した状態となっている。どちらのモーターに通電するかでローギア、ハイギアの駆動を決定するのだ。ハイギア側とローギア側はドグミッションとなっていてアクチュエーターで瞬時に断続が可能。
2モーター駆動で走行する際はこのドグミッションが直結側に切り替わるのだ。この部分にはワンウェイクラッチが組み込まれていて、1モーターでの駆動時にはもう一方のギアと繫がった側はフリー状態となり駆動ロスを抑制する。
定速走行時のほとんどの領域で1モーター+ハイギアモードで走行し、モーター回転は最大でも2000〜3000rpmに抑えられているので、トルクも大きいし、なによりも電力消費が少なくてすむ。
欧州車に採用されている48Vバッテリーとは?
そして最大のポイントは、このモーターを48Vバッテリーで駆動しているということ。日本車では採用されていないが、現在、ベンツなどのマイルドハイブリッドは48Vバッテリーを使っている。
つまり、ハーネス類なども含めて今後の汎用性がとても高いシステムということになる。実は、この駆動モーターは48Vマイルドハイブリッドで使われるモーターなのだ。
350Vで40kWhなどの高電圧、大容量バッテリーを必要としないため、小型軽量のEVパワートレーンパッケージを作り上げることが可能となったのだ。
試作車のZZでは前後に2つのDMMアクスルを搭載する。つまり全出力を使えば80ps/22.4㎏m程度のパワーユニットということだ。
実際に走らせると、驚くほど軽快でスムーズ。想像よりもはるかに鋭い加速力に驚いた。発進加速では「キューン」という音とともに速度が上がり、途中、「コクン」という軽いショックを感じる。
助手席の原智之開発担当常務役員が「今ギアが切り替わりました」と説明。直線でアクセルを緩めるとハイギア1モーター状態となり、モーター音はほとんど感じない。
アクセルをグイと踏み込めば瞬時に1モーターローギアに切り替わり、速度が上がると2モーターハイギアになる。2モーターローギアにはあまり入らない。比較のために乗ったノートe-POWERと比べても加速力は高い。
実用化に向けてまだまだ細部をブラッシュアップしていく必要があると原役員は言うが、今後のEV時代に向けて注目したい新技術だ。