ライドシェアからタクシーへ
さて、ウーバー社の本来のビジネスである(一般ドライバーを対象とした)ライドシェアビジネスが日本で広まらなかったのは、のっぴきならない事情がある。それはタクシー業界に関する法律の壁だ。
さかのぼること約5年前、2015年2月にウーバーは福岡県でのライドシェアの実証実験を試みたが、国土交通省の行政指導により約1ヵ月で中止することになった。
ウーバーの配車サービスが、後述する営業許可を持つ事業者の車両以外での有償乗客輸送を禁ずる「道路運送法」に抵触する、と判断されたからだ。
2015~16年の一時期にライドシェアの合法化が検討されたのは、政府が認定した国家戦略特別区域における「自家用有償観光旅客等運送事業」。
つまりウーバーのような一般個人による自家用車を利用した「旅客自動車運送事業」すなわちタクシー配車サービスが注目されたからと想像できる。
このライドシェア日本導入に向けた法改正の議論において、ソフトバンクなど経済界の一部では「運賃の支払いを含めて、アプリの利用ですべて完結し、ドライバーを評価するシステムなので、サービス向上につながる」という意見が出て、それを追い風にして「日本でもウーバー解禁か」と報じられた時期もあった。
その後も、2016年5月にトヨタとウーバー傘下のウーバーテクノロジーズが自律自動運転でのライドシェア技術で協業する旨を発表(トヨタがウーバーテクノロジーズに5億ドルを出資)。しかしこれにタクシー業界から強い反発が出た。
トヨタは慌てて(?)日本でライドシェアを推し進める方針ではないと釈明。法改正の話は棚上げとなり、現在に至っている。
加えておけば、日本同様に欧州でもウーバーは運輸事業者として規制を受けており、対してウーバー側は「IT事業者として端末で利用できるプラットフォーム提供者である」と主張する。
法律上は「白タク」と同様の海外のウーバータクシー
本来の「(海外版)ウーバー」では、乗車利用については、一般ドライバーを含む個々の契約ドライバーと利用者がアプリによって契約するのが基本であるのに対して、日本におけるウーバータクシーでは、料金体系は契約したタクシー会社による設定となる。
ここでライドシェアに関わる法律として「道路運送法」の第78条「有償運送」に触れておくと、「自家用車自動車は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない」とある。
1.災害のため緊急を要するとき
2.市町村、特定非営利活動法人(NPO)その他国土交通省令で定める者が、次条の規定により1.の市町村の区域内の住民の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送を行うとき
3.公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
いわゆる地方都市などで見られる「白タク行為」(自家用車を利用した迎車サービスを基本とするため、運行車両のナンバーが“白色”であることに由来する)は「旅客自動車運送事業」に違反することとなる。
海外で運用しているウーバータクシーのような一般ドライバーによる自家用車を使った運行サービスである、ライドシェアビジネスも原則として法律に触れることになり、だからこそ(前述のように)ウーバーは「法改正」を期待したわけだが、それが棚上げになっている以上、従来の営業手段(一般ドライバーが一般ユーザーからお金をもらって運送)はとれない。
そこでウーバーは、日本でのライドシェア事業を断念した後、タクシー事業者と提携してアプリによる配車ビジネスを行う、日本版ウーバータクシーを展開することになったというわけ。
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