■崩しの美学が生み出したもの
例えばタキシードを上下ビシッと揃えるのではなく、ボトムスはあえてビンテージ物のデニムとスニーカーにする、みたいな。高度なドレスダウンテクなのである。
タキシード的な上着にジーパンを合わせている人が鉱山で働いているわけではないのと同様に、この種のゴージャス系ピックアップの荷台は、狩猟した鹿や切り倒した木材を載せるためにあるわけではない。たぶん、エルカミーノなどのオーナー各位がそのデッキに汚れモノを載せることは、ほとんどないのだろう。
だが「そこに荷台がある」ということ自体が、ドレスダウンあるいはミスマッチとして絶大な「カッコよさ」を生むのである……という仮説ではいかがだろうか。
■納豆スパゲッティ?
シボレーエルカミーノとフォードランチェロはアメリカのクルマだが、日本のメーカーもかつて、エルカミーノ的な「前半分は普通の乗用車で、後ろ半分は荷台」というクルマを作っていた。
例えばスバルブラットである。スバルブラットは、富士重工(現SUBARU)が1970年代から1980年代にかけて北米で販売していた、レオーネベースのピックアップトラック。
いやモノコックボディであるレオーネに荷台を付けたクルマなので「トラック」と呼ぶのはちょっと違うのかもしれないが、いずれにせよピックアップトラックの人気と需要が高いアメリカ市場向けに当時の富士重工が作った「レオーネのピックアップトラック」だ。
これも基本的には「ファッションアイテム」あるいは「レジャーアイテム」として市場に求められたのだろうが、ハードに使うこともできるレオーネがベースだけに、狩猟した鹿などをスバル ブラットの荷台に放り込んでいたアメリカ人青年も、決して少なくはなかったのではないかと推測する。
ブラットが2代作られたのちにいったんは消滅したスバルのピックアップトラックだが、2003年にはレガシィランカスターをピックアップトラック状に仕立てた「スバルBAJA(バハ)」が誕生し、2006年まで北米で販売された。
バハのエンジンは2.5L水平対向4気筒のEJ25型で、駆動方式はレガシィ ランカスターと同じシンメトリカルAWD。2004年からはターボエンジンも追加されたなどの話を聞くと、「……そのまま屋根付きのランカスター(北米名アウトバック)に乗ってればよかったのでは? 」などと思うわけだが、とにかくアメリカの人というのはピックアップトラックが大好きなのだろう。
イタリアのパスタも日本に入ってくると「納豆スパゲティ」などに変身してしまうのと同様に、スバル車も、北米に行くとピックアップトラックに変身してしまうのだ。
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