こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】 たくさんの恋物語を生み出したS-MX

■甘いフレーズで若い恋人たちに訴えかける

 “倒れたら起こすのが友情、ともに倒れるのが愛情”というキャッチコピーで、使って楽しいことを強調しているのが、ロングなセミダブルベッドになるフルフラット機構だ。ベンチシートやシート内収納式のシートベルトバックルの採用によって、凹凸感のない完全フルフラット化を実現。2146mm×1180mmという広々としたスペースに加え、ソフトな感触のシート設計によってゆったりとしたくつろぎ感をもたらしてくれる。

 充実した収納スペースも使って楽しいと感じる要素のひとつ。後席の両脇に設けられたトレイはまるでベッドサイドテーブルのようで、ほかにも、ティシュボックスが2個入る大型のボックス、小物が入るシークレットボックス、カップホルダーを組み込んだシステムトレイと相まって、フルフラット化したときにくつろげることが考慮されている。

リアシートのシートバックを倒してフルフラットにすると、2146mm×1180mmの超ロングなセミダブルベッドなみの広さとなる
リアシートのシートバックを倒してフルフラットにすると、2146mm×1180mmの超ロングなセミダブルベッドなみの広さとなる

 カタログやテレビCMでは、「恋愛仕様」という意味深なキャッチコピーを謳っていたが、S-MXに採用されていた機能に関しても「恋愛」にちなんだフレーズがつけられていた。

 たとえばフロントまわりに個性を演出していた大型ヘッドライトには、「恋する瞳は常に輝いている。」とか、ワンツードアは「恋愛の入り口は一つだが、出口には結婚と失恋の2つある。」だったり、S-MXの特徴を体現したツインキューブパッケージは「恋は人生の宝石箱。」となっていた。いずれもやや滑稽な感は否めないが、S-MXが販売されていたのがトレンディドラマ全盛の時代だったことを鑑みると、こうした広告表現はあながち間違いではなかったと言える。

 若者向けのデートカーとして売り出したS-MXだが、その狙いは見事に的中し、発売から1カ月の平均販売台数は6000台を超える好調なセールスを記録。2002年に生産終了となる6年間でおよそ15万台が販売された。

 残念ながら一代限りで歴史の幕は閉じたが、小型でも実用的で、大胆な個性を持った「ニュートレンド・パッセンジャーカー」は、その言葉通り、新しいトレンドをもたらす乗用車として、若い恋人たちのハートに火をつけ、その車内ではさまざまなラブストーリーが生み出されたことだろう。かくしてS-MXは、クリエイティブ・ムーバーとして、生活はもとより恋や愛の創造にも大きく貢献したわけだ。

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