マクラーレン・ホンダは、F1開幕3戦を終えて未入賞。完走も1回に留まっている。
昨シーズンはホンダ側の体制も一新され、性能や信頼性の面でも進歩がみられた。にも関わらず今シーズンなかなか結果が出ないのはなぜなのか?
文:編集部/写真:Honda、Mclaren、Daimler、Ferrari
開幕3戦で完走は1回だけ
まず、開幕3戦のマクラーレン・ホンダの成績を一度整理したい。
■マクラーレン・ホンダ 開幕3戦の成績
【第1戦 オーストラリアGP】
F.アロンソ 予選13位/決勝リタイア(ボディ損傷)
S.バンドーン 予選18位/決勝13位
【第2戦 中国GP】
F.アロンソ 予選13位/決勝リタイア(ドライブシャフト)
S.バンドーン 予選16位/決勝リタイア(燃料系)
【第3戦 バーレーンGP】
F.アロンソ 予選15位/決勝リタイア※14位完走扱い(原因不明の不具合)
S.バンドーン 予選17位/決勝未出走(水圧の不具合)
()内はリタイア原因
開幕3戦で、完走したのはオーストラリアGPのバンドーンのみだ。
トラブル頻発の理由は増大した負荷の読み違え
なぜ、これほどトラブルが頻発しているのか。元F1メカニックで、F1ジャーナリストの津川哲夫氏は、トラブルが頻発している背景を次のように解説する。
「今年のF1は、大幅にマシンが速くなったことで、当然パワーユニットにかかる負荷は大きくなっている。ひと言でいえば、その負荷を読み違えていたことが一連のトラブルの大きな要因だろう」
たしかに、今年のF1マシンは過去のコースレコードを連発するなど、史上最も速いF1マシンになっている。
ならば引っかかるのは、なぜ他のトップチームにはマクラーレン・ホンダのようなトラブルが出ないのか? ということ。津川氏はこう分析する。
「それはメルセデスやフェラーリと比べると、パワーユニットの開発に“真剣度”が足りないからだろう」
「2020年にF1の規則は一新される。メルセデスとフェラーリは、それまでに現行規則のF1で絶対に勝つんだと必死にパワーユニットの開発を行っている。それが今シーズンのリザルトにも現われている」
津川氏も指摘するように、今シーズンはフェラーリが2勝、メルセデスが1勝とそれぞれ勝利を分け合い、トップ争いは接戦の展開となっている。
苦戦の根本はF1復帰前からあった「リサーチ不足」の姿勢
津川氏の言う“真剣度”とは、具体的に何を意味するのか? 実はこのキーワードにマクラーレン・ホンダ苦戦の核心があった。津川氏が考える苦戦の原因はこうだ。
「そもそもいきなりF1に復帰しようとした所が最も大きな問題。そこには最新のF1に対するリサーチもディベロップメントも不足していた」
「例えばメルセデスだって、まだF1がNAのV8エンジンだった時から、現在のV6ターボエンジンの研究をやっていた。5〜6年かけて将来勝つための準備をしていたんだ」
「ホンダも第2期F1時代は、そういったリサーチをきっちりやっていた。だからこそ1988年に16戦15勝というすばらしい結果を残せたのだ」
2015年から復帰したホンダの目の前には、当時最強だったメルセデスという最高の教材があった。にも関わらず、その教材をリサーチし、優れたパワーユニットを開発できなかった。
現場レベルではなく、ホンダ上層部のこの姿勢にこそ、問題の核心があると津川氏は語る。
ペナルティ覚悟の開発が苦戦脱却への鍵
苦戦が続くマクラーレン・ホンダだが、浮上するためには何が必要なのか? 津川氏が考える鍵はズバリ、開発方針にある。
「現在F1で年間に使えるパワーユニットの数は4基まで。でも、そんなの気にせずにガンガン新しいエンジンを作って、怒濤の改良をすべき」
「今のF1はテストが著しく制限されているからこそ、いくらペナルティを受けようが、そうやって実戦で開発をしていくことは、先々のアドバンテージを生むことにつながる」
「ホンダが常々言っている“走る実験室”になりきれということ。それをマクラーレン側の机も叩いて言える指揮者がいれば、必ずホンダは蘇る」
日本のファンはマクラーレン・ホンダがふたたび栄光を摑む日を心待ちにしている。