プロスト、シューマッハ、ロズベルグ、そしてベッテル……。トップドライバー引退のタイミングとは?

プロスト、シューマッハ、ロズベルグ、そしてベッテル……。トップドライバー引退のタイミングとは?

 今シーズンもって4回ものワールドチャンピオンを獲得したセバスチャン・ベッテルが引退する。まだ35歳の若さだ。素晴らしいスポーツ選手でも引退する時は必ず来る。さてF1のトップドライバー達の引き際はどうだったのか、元F1メカニックの津川哲夫氏に訊いてみた。

文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Alpine

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トップドライバーでも旬が過ぎればトップチームに残るのは簡単ではない

ロータスに復帰した年になんと優勝を果たしているライコネン。そこからフェラーリ、アルファロメオと渡り歩いた
ロータスに復帰した年になんと優勝を果たしているライコネン。そこからフェラーリ、アルファロメオと渡り歩いた

 昨年2007年のワールドチャンピオンであったキミ・ライコネンが19シーズン、実に350戦以上を走って42歳で現役F1ドライバーを引退している。

 ライコネンはチャンピオンを取れるであろうチームを離れ移籍し、徐々に力を落としながらも走っていたがトップチームへ返り咲くことなくグランプリ・レーシングから引退した。

 近年の引退劇の多くは同じようなシナリオの中にあった。チャンピオンこそ手に入れることはなかったが、十分に力のあったフェリペ・マッサも最終的には華の咲かぬまま36歳でF1を去った。

7回のワールドチャンピオンを獲得したシューマッハも復帰後は輝くことなく引退

 レジェンドドライバーでも似たような引退をしている。

 例えばミハエル・シューマッハ。言わずとしれた伝説のチャンピオンで、7回のワールドチャンピオンを2つのチームで獲得してきた歴史的なドライバーだ。そのレジェンドであるミハエル・シューマッハは黄金期フェラーリ時代で一旦引退し、ワークス・メルセデスで復帰したのだが、未完成のチームでは輝くことなくむしろ築いてきた伝説に若干のほころびを造ってしまった。43歳で最終的に引退も、華やかな引退劇とはいいきれない形でF1キャリアを終わらせている。

 もちろん過去にも多くのチャンピオンが引退をしているが、勝利を得たところでF1を去り、それもその後に復帰しなかった例は極めて少ない。それはそのはずで、チャンピオンに到達すればその後いくらかはチャンピオンパワーを発揮できるはずと思えるからだ。したがって引退の判断は極めて難しいのだ。

引退のタイミングを誤ると、名声とレジェンド性を傷つけてしまいかねない

 チャンピオンを獲得し引退をしたアラン・プロストはF1界隈の風当たりが強く、決して有終の美を飾っての引退というわけではなかった。

 チャンピオンであればあるほど引退の時はTPOを正確に把握してのシナリオが必要だ。これを間違えば折角築いてきた名声を、レジェンド性を傷つけてしまいかねない。

 また脳裏に“引退”の字が浮かんだときは素早く引退することが望ましい。しかし例え“引退”を考えたとしてもなかなかそれを自分で決意するのが難しいのは当然だ。多くは自問しているはずだ「まだまだやれるはずだ、引退はまだ早いのでは?」などと。

  しかし一度“引退”を脳裏に思い浮かべた時点で、脳内のレース思考には若干の隙間ができてしまう。トップエンドのレーシングを超高密度の思考回路で戦うF1ドライバーにはその僅かな亀裂、隙間ができることで、集中力にほころびが生まれてしまう。

 こうなるとイージーミス、接触、スピン、コースアウト、クラッシュ……の可能性が高まる。また、近年では難しいインスツールメントの操作を手際よく素早く臨機応変に扱なくてはならない。加えて、厳しいレギュレーションに沿った走りをし、サイドバイサイド、テールツーノーズのバトルをしながら休むことなく300kmの長丁場を走らなければならないわけだ。そんな状況に僅かな思考の亀裂等入り込むゆとりなどないのだ。実際多くの引退を決意ドライバー達は、それを決めた年の最後までコンセントレーションを維持できた例は稀なことだ。

 ベッテルは今、最後の力を振り絞って最終戦までを走り切る努力をしているように思える。そして何とかベッテルらしさの光るレースを展開している。願わくば最終戦まで無事に走りきって、その輝きを保ったままで引退の花道を歩んで欲しいと思うのだ。

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