2013年11月、初代レンジローバーイヴォークの2014年モデルが世界初の9速ATを搭載した。はたしてそこまでいるのか? という気もするが、最先端の世界は今どうなっているのか? すでに実用化され普及が進む最先端の技術の世界を覗いてみよう。(本稿は「ベストカー」2013年12月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:渡辺敏史、西川 淳、国沢光宏、松田秀士、渡辺陽一郎
■世界初の9速AT レンジローバー・イヴォーク2014年モデル
搭載するエンジンを車格に対して小さくすることで、イニシャルの燃費レベルを引き下げる。いわゆるダウンサイジングテクノロジーが欧州から広まった大きな理由は、彼らが十八番のディーゼルエンジンで培った高圧縮燃料噴射と過給器の相互最適制御を技術ベースとして転用できた点が非常に大きい。
が、ガソリンエンジンはそもそもディーゼルに比べるとトルクバンドの狭さに加えてその絶対値も低いという短所がある。それを補うにはギアレシオのワイド化が必須だが使い勝手や効率を考えるとステップ比を細かく刻んだ方がより効果的だ。
と、ヨーロッパのメーカーやサプライヤーがトランスミッションの多段化に積極的な背景はこういった事情が考えられる。日本メーカーは軽自動車や小型車を中心に、同様の課題を副変速機付CVTでカバーしているわけだが、彼らの場合は伝達効率もさておき、直結的なドライバビリティを重視する嗜好性の問題から多段化を採る傾向が強い。いっぽうで、デュアルクラッチ式などのロボタイズ系は許容トルクや繋がりの滑らかさなどに課題があり……ということで、大型車や高級車ではトルコンATが好まれる傾向にある。
トランスミッションの自社開発を前提とするメルセデスが現在主力として用いているのは7速ATだが、すでに新たな9速ATが欧州で登場。7Gに対して軽量・コンパクトに纏められながら許容トルクは1000Nmと同等の容量を持っており、エンジンとの組み合わせによっては最大9%程度の燃費向上に寄与するという。
と、これに先駆けて世界初の9速AT実用化を達成したのが独ZF社。このミッションは従来の横置き用6速ATに代わるものとして開発されているが、その中身は縦置きへの転用が可能。横置き4WDへの搭載時には必要時以外に後軸側駆動配分をカットするオンデマンド機能や、果てはトルクコンバータをモーターに置き換えてのパラレルハイブリッドシステムの構築も前提とするなど、多彩な発展性をもって開発されている。
この9速ATを世界で初めて搭載した市販車が、レンジローバー・イヴォークだ。この9速AT+オンデマンド4WDを従来からの2L4気筒直噴ターボと組み合わせた2014年モデルは、JC08モードで約18%の燃費向上を果たした。
製品版の試乗ではオンロードからフラットダート、果ては斜度37度のスキージャンプ台を駆け下りるようなアトラクションも含まれていたが、そこで気づいたのが多段化によるワイドレンジの思わぬ恩恵。というのも、通常ならば2速発進でも充分なほどローギアードに振られた1速ギアが、4WDの場合は図らずも副変速機のローレンジにほど近い仕事をこなしてくれるということだ。
悪路モードでは力強いトラクションとともに、降坂時には速度抑制も担ってくれるなど、安心感の高いドライバビリティは6速AT時代には考えられなかったこと。一方で高速巡航は100km/hで1550rpmと、従来では考えられないほどのハイギアードを実現している。
カバーレンジの広さはもとより、ロボタイズ系にも比する変速時間の短縮やカチッとした駆動感など、スポーツフィールでも理想的な特性を持ったATに仕上がっている。
そのZFで現在最も普及している多段ATは、BMWやアウディ、マセラティやクライスラーなどが用いる縦置き型8速モデル。初期に比べると持ち前のダイレクトフィールはそのままに、各ギアの繋がりや高負荷時のトルク変異などが滑らかに躾けられている。
対する日本勢で孤軍奮闘するアイシンAWの8速モデルは変速の滑らかさやアクセル操作に対するギア選択のリニアリティなどでZFのそれを上回るが、変速速度やダイレクト感という点に於いては一歩譲るところ。そのネガを補うべくIS Fに採用されるモデルは、2速以上はフルロックアップとなり充分なフィーリングを供してくれる。この両者は特性的に甲乙付けがたい感があるが、普及度ではZFが大きくリードしているのは確かだ。CVTの多様性に賭している感がある日本勢の今後の展開はいかに?(TEXT/渡辺敏史)
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