ご存じのとおり、クルマのフロントグリルは、エンジンを冷やすための「風穴」。フロントグリルから空気を取り入れることで、ラジエーターへ風を導き、この風によって、エンジンの熱で温まった冷却水を冷やしている。内燃機関を持つクルマとっては、大切な装備だ。
しかし、モーター駆動であるBEV(=Battery Electric Vehicle=バッテリー動力のみで駆動するEV)の場合、エンジンを冷やす必要がない(というかエンジンがない)ため、フロントグリルは必要がない。
では、EV化が進むと、フロントグリルは消滅してしまうのだろうか。
文/吉川賢一 写真/TOYOTA、HONDA、MITSUBISHI
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■フロントグリルの役割は「風穴」だけじゃない
そもそも「グリル(Gril)」とは、肉や魚を焼くときに使う「焼き網」のこと。クルマのフロントグリルは、クルマの正面についている網や格子上の部分のことを指し、バンパー側にあいている開口部とは分けて考えられることが多い。
例えば、BMWのキドニーグリル、アルファロメオの盾型グリル、国産車だと、日産のVモーショングリル、レクサスのスピンドルグリルなどは有名だ。
フロントグリルの役割のひとつは、冒頭でも触れたように、エンジンを冷やすための空気の取り入れ口、ということ。ちなみに、グリルよりも下側にあるフロントバンパーの穴は、ラジエーターの冷却以外にも、空気抵抗を抑えるための空気の抜け穴として存在する。
最新トレンドの技術では、このフロントバンパーの穴から取り入れた気流をフロントタイヤの直前から、タイヤの横を通るように吹き出して「エアカーテン」をつくり、フロントタイヤ横で発生する渦をコントロールすることで、空気抵抗を低減させている。
そして、もうひとつ重要な役割がフロントグリルにはある。クルマの顔に表情を作る、というデザイン要件だ。
■クルマの「表情」作りに欠かせないフロントグリル
クルマの「顔」の一部であるフロントグリルは、ちょっとしたデザインの違いで、売り上げが天と地ほども差がつくことがある。その典型例が、いま絶賛爆売れ中の「アルファード」、そしてその兄弟車である「ヴェルファイア」だ。
以前はヴェルファイアのほうが人気だった2台だが、2017年のマイナーチェンジで状況が一変する。このマイナーチェンジでは新開発の直噴エンジンとダイレクトシフト8ATの組み合わせが搭載されたほか、内外装の変更と、クオリティアップがおこなわれた。
マイチェンによって、フロントグリルがブラック基調にメッキの縦ラインとなり、高雅な雰囲気となったアルファードに対し、ヴェルファイアは、メッキエリアがグリルだけでなく、サイドまで拡大、ギラギラ感が増すフェイスとなった。
ヴェルファイアは若者や女性をターゲットとしたネッツ店(当時)の顧客に合わせて、艶やかで派手なフロントフェイスとしたわけだが、これがどうやら「やりすぎ」だったようで、現在は、アルファードがヴェルファイアの10倍も売れている状況だ。
冒頭で触れたように、BEVはフロントグリルから冷却用の空気を取り入れる必要はない。BEVで冷やすべきなのは、床下に敷き詰めた駆動用バッテリーだ(高速走行直後に急速充電をすると、バッテリー加熱保護のための充電速度抑制がおこなわれてしまうことがある)。
機能的にはフロント部にグリルを装備する必要のないBEVではあるが、現在販売されている多くのBEVでは、エンジン車のグリルのようなデザインをもっている。これは、メーカー各社がフロントフェイスに個性や表情をつくるためにグリル(のようなもの)は必要だ、と考えているからであろう。
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