IRTAD(国際交通事故データベース)のデータから、2019年の日本の高齢者死亡事故件数は世界でも最も多いことがわかった。
正直あまりありがたくない「世界一」だが、世界の交通事情とも比較しながら、なぜ高齢者の事故が多いのか? 日本の交通事故事情と何が違うのか? を分析していきたい。
※本稿は2021年11月のものです
文/桃田健史、高根英幸、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2021年12月10日号
■世界での交通事故死者数は年間100万人以上
世界保健機関によると、世界での交通事故死者数は、なんと年間135万人以上に達している。
地域別で、人口10万人あたりの交通死亡者数で見ると、最も多いのがアフリカで、次いでインドなど南東アジアとなる。事故の特徴は歩行者比率の高さにある。アフリカでは40%とアメリカの22%の2倍もある。
こうした経済途上国、または経済新興国の現場を訪れると、未舗装路上で住宅のない人々が昼夜を過ごしていたり、高速道路があっても車線維持せずに走行しているなど、交通事故のリスクが高いことは肌感覚でわかる。
一方、先進国では、アメリカの走行中の死亡事故数が何年経っても大きく減少していかない。料金無料のフリーウェイを法定速度以上で走る行為はもちろんのこと、一般道路での実勢速度がフリーウェイ並みに高いケースが多いことも、死亡事故数が多い原因だ。
そのため、アメリカはオバマ政権の時から高度運転支援技術(ADAS)や自動運転技術に関する研究開発を強化したのだが、トランプ政権となり自動運転推進の流れが弱まり、バイデン政権でも現時点では大きな変化は見られない。
また経済発展が著しい中国でも、北京や上海など、2000年代に比べると最近は信号無視で横断する人がだいぶ減った印象があるが、自動車普及台数が増加するなかで、自動車事故に関するより厳しい対策が急務となっている状況だ。
■日本の高齢者の事故はなぜ多い?
こうしたなか、日本や韓国で高齢者の事故が多いというデータがある。日本の場合、運転中のみならず、歩行中の事故が多いのが特徴だ。横断歩道がない場所での横断による事案も多い。
日本での高齢ドライバー事故といえば、いわゆる池袋暴走事故が記憶に新しいところだ。このほかにも、連日のように全国各地でコンビニやスーパーの駐車場から店舗にクルマが誤って突っ込んだというニュースを目にする。
そのたびに、「なぜ日本ばかり起こるのか?」という疑問を抱く自動車業界関係者は少なくない。
筆者も長年に渡りアメリカで生活してきたが、各地のローカルニュースで高齢ドライバーが誤って……という類のニュースを観るのは極めてまれだ。アメリカの場合、前向き駐車が基本であるため、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故発生のリスクは日本より高いはずだ。
また、市場での主要モデルもSUVやピックアップトラックなど車体サイズやタイヤサイズが大きいため、タイヤ止めを乗り越えることも比較的容易であるはずだが、日本のような社会状況にはなっていない。
一部には、日本のメディアは高齢ドライバー事故を大きく取り上げ過ぎだ、という意見があるのは承知している。
だが、事故の数だけではなく、日本では海外ではあまり起こり得ないような高齢ドライバーの事故、または事故に至らなくても高速道路や自動車専用道でのかなり長時間に渡る逆走がしばしば起こっているのは事実だ。
では、国土が広くクルマ社会であるアメリカとは違い、日本に近い国土の広さや公共交通機関が整備されている場合が多い欧州ではどうなのか?
ところが、欧州でもアクセルとブレーキの踏み間違いや、逆走など、高齢ドライバーによる事故が目立つというほどでもない。
実際、自動車メーカーでもそう認識しており、そのように車両の仕様を決めている。
例えば先日、こうした件でスズキの先進安全技術開発担当者らと意見交換したが、現状でもアクセルとブレーキの踏み間違い防止装置は日本向けで、欧州仕様の各種スズキ車には装着していないケースが多いという。
そして「日本で高齢ドライバーによるペダル踏み間違いなど、海外とは違う事例が多く発生する理由については、(根本的な)原因がわからない」と言う。
筆者の個人的な見解として、日本で高齢ドライバー事故が多い原因は、やはり年齢分布に起因するところが大きいように思う。肉体的や精神的な衰えにより事故を起こしやすいとされる、75歳以上の免許所有者数の増加率が高いのだ。
その先については、医学的見地での検証を進めていかなければならない。
(ここまでのTEXT/桃田健史)
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