■決算期には販売車の大半が特別仕様車になることも
そして決算期などクルマが大量に売れる時は、特別仕様車を集中的に扱う。トヨタの販売店では次のように述べた。
「決算期にはシエンタならセーフティエディション、ヴォクシーならZS煌IIIという具合に、買い得な特別仕様車を中心に売る。大量に販売できる時期だから、在庫車を持つ場合もある。そして在庫車は、3月末までに登録して弊社の決算に反映させることが前提なので、割安な特別仕様車からさらに値引きも行う」。
このように特別仕様車は、価格を割安に抑え、なおかつ値引きや各種のサービスも相応に行って競争力を高めた。そこを生かして一気に売り込む戦略だ。
そして特別仕様車は、メーカーや販売店にとって、既存のグレードよりも効率の優れたクルマに仕上げられている。
ヴォクシーZS煌IIIの場合、メーカーオプションの選択肢は、普通のグレードに比べて圧倒的に少ない。ボディカラーも4色のみで、実質的にブラックかホワイトの二者択一だ。
特別仕様車は売れ筋タイプに絞り、量産効果も高めることで、割安な価格を実現して売れ行きを伸ばす。そして特別仕様車は人気の仕様のみだから、好調に売れて、なおかつ中古車として流通させる時も有利だ。
メーカーや販売店にとってメリットの多い仕様だから、価格も割安に抑えた。その結果、決算期などは、販売されるクルマの大半が特別仕様車になる車種もある。
また特別仕様車でありながら、長期間にわたって売られるタイプもある。シエンタGセーフティエディションは、2020年1月に設定されたので、すでに1年以上にわたり販売を続けている。ヴォクシーZS煌も定番の特別仕様車で、常に販売している印象を受ける。
それならグレードに変更する方法もあるだろう。
例えばセレナの売れ筋グレードとされるXVとハイウェイスターVは、もともとX・VセレクションとハイウェイスターVセレクションという特別仕様車で、これをグレードに変更したものだ。
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■特別仕様車が「グレード」にならない3つの理由
その一方で、シエンタGセーフティエディションやヴォクシーZS煌は、いつまでも特別仕様車とされてグレードにならない。
その理由は3つある。
まず特別仕様車なら、設定と廃止(あるいは中断)を自由に行えることだ。ヴォクシーZS煌も、現在販売されているのはIIIになる。
販売促進に力を入れたい時期に設定しながら、バージョンアップを重ねてきた。出したり引っ込めたり、必要に応じて変更を加えるなど、都合を優先できるのは特別仕様車のメリットだ。
2つ目の理由は「特別仕様車」という言葉を使うためだ。シエンタGセーフティエディションであれば「安全性と快適性がさらに充実した特別仕様車が登場」とアピールされ、注目度を高める効果も大きい。
3つ目の理由には、既存のグレードに比べて価格が割安なことが挙げられる。商品企画担当者に尋ねると以下のように述べた。
「買い得な特別仕様車をグレードに変更すると、お客様からは、値下げを行ったと受け取られる場合がある。既に購入されたお客様に対しては失礼だ。そこを不定期に設定される特別仕様車とすれば、グレードではないから、この問題を避けられる」。
以上のように特別仕様車は、メーカーや販売会社の都合に基づき、人気の装備を割安に装着して設定される。買い得だから売れ行きも伸びるが、喜べることばかりではない。人気の高い新型車に、特別仕様車は設定されないからだ。
シエンタは発売から5年、ヴォクシーは7年を経過して、以前に比べると売れ行きも下がったから特別仕様車を用意した。
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