数年前から、欧米の一部のカーマニアが日本の軽トラに熱狂していたらしい。
さらにそれより前から、フランスの日本アニメファンは、来日時に軽トラを見ると「アニメに出ていたミニ・トラックだ!」と感動するとも聞いていたが、軽トラの本家である日本では、それほどの軽トラブームは起きなかった。
しかし、本国日本での軽トラブームは、深く、静かに進行していたのです……。
文/清水草一、写真/清水草一、DAIHATSU、SUZUKI、HONDA
【画像ギャラリー】クルマはエンジンと四つのタイヤで走るハコ……それをとことん突き詰めていくと、やがて軽トラにたどり着く!?
■クルマ好きの心の琴線に触れまくる『軽トラ』
このところ、軽トラブームが来ているらしい。いったいナゼ? 理由はよくわからない。
数年前から、アメリカの一部マニアが、日本の軽トラに熱狂しているという話は伝わっていた。
また、20年以上前から、日本のアニメファンが多いフランスで、アニメ作品中に登場する軽トラ(ミニ・トラック)に注目が集まり、彼らが来日すると、本物の軽トラを見て感動するとも聞いていた。
しかし本家の日本では、「ふーん」「おもしろいね」くらいの反応で、特にマニアックなブームは起きなかった。
個人的には、軽トラを意識したのは、3年前のスズキ・スーパーキャリィの登場からだ。キャビンが後ろに拡大され、シートがリクライニング可能になり、シートの後ろにカバンも置ける。これは2シーターミッドシップのフェラーリに似ている!
見た目も頭でっかちでユーモラス。ボディカラーも、「ガーデニング アクアメタリック」などいかにもオシャレ。「これはクルマ好きのココロに刺さるぜ!」と直感した。
■クールなカラーに快適シート、ソフトなリーフリジット、こりゃイイぞ!
スーパーキャリィの登場に刺激されて調べてみると、ライバルのダイハツ・ハイゼットには、「ハイゼットトラックジャンボ」という、同じような拡大キャビン版が、1983年から存在していたんですネ! 私は3年前までその事実すら知りませんでした。それほどまでに、軽トラは守備範囲外だったのです。
もちろん、RRのスバルサンバーや、ミドシップのホンダアクティがスゲエ! という話は知っていたし、乗ったこともあったけれど、しょせん自分とは関係ないクルマだった。なにせ積むものがないので……。
ところが、ハイゼットトラックジャンボの広報車を借りてみると、ボディカラーはオフビートカーキメタリック。めっちゃクールやんけ! 拡大キャビンのおかげでリクライニングもできる。スーパーキャリィのほうがキャビンがデカいので、リクライニング角度も大きいけれど、実用上の差はあまりない。
乗り心地はどうか。イメージ的には、路面の凹凸がガツンガツンが来そうだけど、乗ったらマシュマロのようにソフト! リーフリジットってこんなにカイテキだったの!? これはイイ! クールな上にカイテキ! 最先端にオシャレさん! これに乗ってりゃモテるかも!? と思ってしまいました。
が、それでも特にブームは来なかった。
■注目度はラグジュアリークーペよりも上!?
ところがここに来て、ついに日本でも風向きが変わった。
それを強く意識したのは、昨年9月のこと。雑誌の撮影でスーパーキャリィに乗っていたら、そこに同業者のレクサスLC(出たばっか)が現れた。
が、クルマ好きたちは全員スーパーキャリィの周囲に集まり、LCには見向きもしなかったのだ!
別に新型車でもなんでもないというのに、スーパーキャリィのオーラはスゲエ! スーパースポーツを超えている!
それでも私は、軽トラを買おうとまでは思いませんでした。なぜって、やっぱり使い道がないので……。
ところがそんな私が、まったく突然に、軽トラを買ったのです!
きっかけは、ふと「2CVみたいなプリミティブなクルマが欲しい」と思ったこと。その国産版は軽トラではないか。それもなるべく古くて安い軽トラを買えば、いろいろ不便だろうし故障もしたりして、2CVみたいに楽しいのではないか?
そして、運命的に購入したのが、90年式のハイゼットトラックジャンボ(5MT)でした。車体は旧規格で、エンジンは660cc、車両本体価格29万円、総額40万円。31年前の軽トラがそんなにするのか! と思うかもしれないが、2CVなら200万円くらいするんだからお安いワ~!
実車を見ずに買ったけど、乗ってみたらこれがもう、爆発的に面白い! 一般道で時速60キロ出すだけで、あまりにも気持ちよくてエクスタシー!
いったいなぜこれほど、軽トラの運転は面白いのか?
理由は、タイヤ付きのハコが動力で走る! というヨロコビを、最もダイレクトに実感できるから、ではないだろうか。
走って、止まって、曲がるだけでウレシイ! 今のクルマたちは、あまりにも快適すぎて、それが実感しずらいのだ。軽トラも快適っちゃ快適なんだけど、あくまで「思ったより快適」と申しましょうか。
そこに古さが加わると、より無防備感が増す。安全デバイスは皆無だし、パワステも集中ドアロックもないし、クーラーは修理したけどあんまり効かない。
夏はサイドウィンドウ全開、リヤウィンドウも全開(ジャンボは扉のように左右に開きます)で、風を感じつつ、5速MTを駆使して一般道で時速60キロ出すだけで、「うわああああああーーーーっ!」と叫びたくなる。