免許取得時に使用する教習車は、ドライバーにとって印象深いクルマの1台なのではないだろうか。免許取得までの期間は教習車と過ごすことになり、実技の苦労とともに思い出されるはずだ。
最近は輸入車の教習車を導入する教習所もあるが、その一方でメーカーが製造するいわゆる教習車仕様は年々減少しており、現在ではトヨタとホンダ、マツダの3メーカーのみが製造している。
教習車仕様はなぜ減ってしまったのだろうか?
文/藤田竜太、写真/Toyota、Honda、Mazda、ベストカー編集部
■あんなにたくさんあった教習車が
皆さんは、自分が教習所に通っていたときに乗った教習車の車種を覚えているだろうか? トヨタでいえばクラウンのセダンやクレスタ、コンフォートにコロナあたりだろうか。
日産ならセドリックセダン、グロリアセダン、ブルーバードシルフィ、ティーダラティオ、クルー。マツダだとルーチェ、カペラ、ファミリア、アクセラ。ホンダだとアコード、三菱だとギャラン、ランサー。
雪国ではスバルのインプレッサG4(4WD)も多かったし、かつてはいすゞのアスカといった教習者もあった。
しかし、今日国産各社で教習車仕様が設定されているのは、トヨタ「教習車」(ベースは先代カローラアクシオ)、マツダ「教習車」(タイで製造している旧デミオセダンベースのマツダ2セダン)、ホンダグレイス教習車の3車種のみ。
ちなみに三車のなかでは、マツダ「教習車」のシェアが一番多い。
■車種激減の理由はタクシーにあった?
ではなぜ教習車の車種はこれほど絞られてしまったのか? 理由はいくつか考えられるが、一番は教習車に適したベース車が減ってしまったからだろう。
普通自動車の教習車には、道路交通法施行規則により下記のような条款がある。
・乗車定員5人以上
・全長4400mm以上、全幅1690mm以上
・ホイールベース2500mm以上及びトレッド1300mm以上
これらを満たせば、セダン以外のSUVやミニバン、ハイブリッド車、EVでもかまわないとされている。
しかし、実際は上掲のように昔から中小型セダン以外の教習車は例外的で、5ナンバーサイズのセダンが最適とされてきた。
これから運転免許を取得しようとする運転ビギナーにとって、クルマはできるだけコンパクトであるのが望ましく、なおかつボディ形状が角張っていて、見切りの言い車体であることはけっこう重要。
さらに言えば、余計な装備やデコレーションは不要で、シンプルでなおかつ教習所の経営的にはできるだけ安価なモデルがベスト。
そういう意味では、かつてのタクシー向けの車両とけっこう共通する点があり、トヨタのコンフォートや日産のクルーなどはいいチョイスだった。
ところが今やタクシーもトヨタのJPN TAXIやプリウスが主流。JPN TAXIは文字通りタクシー専用車種だし、ハイブリッド車のプリウスは車体価格がガソリン車よりも高いので不向き(一時期、教習車もちらほら見かけた)。
少子高齢化で、これから免許を取得する若い世代の人口が減る一方なので(過去20年で80万人も減った)、教習所経営も厳しく、全国的には廃業する教習所も少なくない(過去20年で150校が廃業)。
当然、設備投資は減らしたいので、高額な上級セダンやSUV、ミニバン、EV、ハイブリッド車などの需要はない。
また新規免許取得者の多くがAT限定免許といわれているが、その割合は68%(2019年)で今なお3人に1人はMT免許を取っている。当然教習車にもMT車は必要で、高速教習などを考えれば、教習所としては同車種でMT車とAT車を用意したいところ。
そうなるとどうしても車種が限られてしまう。
コメント
コメントの使い方日産ティーダラティオの教習車もありましたよね。