他社の生産ラインを間借りして、バックオーダーを処理する手はずを整えるなど、ミツオカ・バディが大人気となっている。また、限定生産だったロックスターもあっという間に完売し、先日発売した1台限定の50周年記念モデルも100倍の競争率となっている。
他社にはない個性的なクルマを生み出すことでもともと定評のあったミツオカだが、ここ最近その評価が大きく上がっていると感じる。
今回は、ミツオカがここまで多くの人を魅了している理由を、清水草一氏にエンスー的目線で考察してもらう。
文/清水草一
写真/MITSUOKA
■エンスー目線ではオマージュだが リスペクトは感じるその姿勢
ミツオカ・バディが大人気となっている。年間生産台数を150台から300台に倍増しても、2年の納車待ちが解消されず、「トノックス」および「三菱ふそうバス製造」の2社に、バディの車両製造を委託することを決定。それによってバディの年間生産能力が向上し、納期を約1年半に短縮する手はずを整えたという。
限定生産だったロックスターもあっという間に完売し、2022年1月27日に発売した1台限定の50周年記念モデルは、100倍の競争率だった。
こういう取り合い状態を見ると、ミツオカ車の評価が、最近大きく上がっているように感じる。
が、エンスー目線から見れば、ミツオカ車は名車へのオマージュ作品がほとんどだ。かつて徳大寺有恒巨匠は、愛車のジャガーマークIIの隣に、誰かがわざわざミツオカ・ビュートを止めているのを見て、「気持ちはわかる」と書かれていた。
ミツオカ・ビュートは、マーチをベースにした、ジャガーマークIIへのオマージュ作だ。しかしビュートを買った人のなかには、ジャガーマークII知らない人もいるだろうし、知っていても悪気はなく、そこにあるのは純粋なリスペクトのみ。
そういう人が巨匠の本物を見て、「ウチのと似たようなクルマがいる!」あるいは「ウチのクルマの本物がいる!」と喜んで、わざわざ隣に止めたのだろう……というニュアンスで、巨匠は語られていた。本物のオーナーは苦笑するしかない。
それと同種の話は、ダイハツにも存在する。かつてダイハツが販売していたミラジーノは、ミニへのオマージュ作だった。
ある日、ダイハツのディーラーに、ミニに乗った客が現れた。そこで営業マンは気をきかせて、ショールームのミラジーノのところに案内した。ところが客はムッとして、「見たいのはこれじゃない。ネイキッドだ」と言ったという。
ダイハツ側には悪気はないのだろうが、本物のミニのオーナーにすれば、「本物のオーナーにニセモノを勧めるヤツがあるか」ということになる。
ミツオカの現ラインナップは、すべてオマージュ作だ。オロチだけはフルオリジナルデザインで、「ファッションスーパーカー」として大きな話題になったが、ロックスターやバディのような取り合いにはならず、販売は思ったほどは伸びなかった。
前述のようにビュートはジャガーマークII、リューギはロールスロイス、ヒミコは……特定はできないがジャガーSS100あたりのクラシックカー風。かつて運輸省の型式認定を取り、ミツオカを日本で10番目の自動車メーカーに押し上げたミツオカゼロワンは、ロータスセブンが元ネタだった。
欧州車を愛好するクルマ好きは、私を含め、基本的に神経が繊細だ。繊細な神経でミツオカ車を見ると、どうしても「問題外」という評価になった。
ダイハツ同様、ミツオカには悪気はないだろう。ジャガーやロールスのフォルムはもはや人類共通の遺産で、それをなぞるのはオマージュそのものなのだろう。が、本物のジャガーやロールスを愛する者にすれば、問題外に見えるのも当然だ。
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